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【第36話】永遠ではないもの
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フィルは泣きながら言葉を繋げる。
「昔は……って考えた? 残念だね。みんなみんな、あなたのせいだ! 綺麗な心の優しいフィルはあなたが殺した。あなたのせいで僕は生きる意味を失った! 出ていって!………出ていけ!」
心の中がぐちゃぐちゃだ。苦しい。悲しいと感情が溢れる。
『すまない………ドアの向こうにいるから。顔を見るのは嫌だろう………』
レガートは掠れた声でそう言い部屋を後にした。フィルの生きる意味……それはレガートと共にあること。
ただそれだけの、儚い小さな望みだった。
レガート、その存在だけが、フィルの世界の全てだった。
毎日毎日、一日必ず二回、レガートはフィルの元を訪ねる。レガートは『調子は、どうだ』とフィルの機嫌を損ねないように、おずおずとした口調で訊く。
けれどフィルはベッドで宙を見つめたまま、ただぼんやりするだけだ。
ベッドの傍らに座り、特に何も話しもせず、レガートは、持ってくる小さな果物の入った籠をテーブルに置いてフィルを見つめ、『また、来てもいいか?』と訊く。
いつも、フィルの答えは無いのは解っているはずなのに。
しばらく黙り込みレガートは、小さく『すまない、フィル。また来るから』と言う。
レガートの持ってきたものはフィルは食べない。嫌悪感しかなかった。
愛なんて夢を見た自分は何て馬鹿だったんだろうとフィルは思う。
永遠なんて、ないのに。
言葉ではなんとでも言える。 食欲がないのが、今のフィルの悩みだ。
レガート以外の人の差し入れは少しだけしか食べられないけど、頑張って食べる。
あの食事を思い出して吐いてしまうことが多いけれど。
レガートには苦しんで欲しい。
罪を悔いても、
消えない傷と
後悔と贖えない罰として心の中に棲み続けてやりたいとフィルは思う。
でなければあの三ヶ月が報われない。その思いは変わらない。
今、フィルがレガートにあるのは、
歪んだ憎しみと、
身体と心が怯える痛みの記憶。
それと、
過去形の『愛してた』
そして『愛されていた』
ということ。 ふっと、フィルはため息を吐く。
部屋が広い。何が足りない。フィルを見つめる柔らかな目差しが、
柔らかな声が。
『おはよう、フィル』
そう言い額に口づけをくれてフィルの髪を梳く繊細な指先が足りない。
あのひとが足りない……。
冬の空気が部屋を満たしていく。魔法陣の炎が焚かれて、部屋は暖かいはずなのに、
空気が蒼白く感じる。
フィルは手首の消えた傷を見る。
目を瞑りレガートの名前を呼んだ。
今のレガートにあるのは罪悪感だ。
今のレガートにあるのは愛じゃない。
そしてフィルを『愛してる』と言っても、結局あのひとは優しくしてくれる人なら誰でもいい。
第二のフィル、
第三のフィル。
代わりはいくらでも居ると思ってしまう。フィルは、
「『ずっと愛してる』、か。僕は愛していたんだけどな『死』さえ否定されて………」
そう言い手で顔を覆う。
笑いながら涙がこぼれた。
そして、レガートの今の想いに一番こだわっているのは、自分自身だとフィルは気づいた。
────────────続
「昔は……って考えた? 残念だね。みんなみんな、あなたのせいだ! 綺麗な心の優しいフィルはあなたが殺した。あなたのせいで僕は生きる意味を失った! 出ていって!………出ていけ!」
心の中がぐちゃぐちゃだ。苦しい。悲しいと感情が溢れる。
『すまない………ドアの向こうにいるから。顔を見るのは嫌だろう………』
レガートは掠れた声でそう言い部屋を後にした。フィルの生きる意味……それはレガートと共にあること。
ただそれだけの、儚い小さな望みだった。
レガート、その存在だけが、フィルの世界の全てだった。
毎日毎日、一日必ず二回、レガートはフィルの元を訪ねる。レガートは『調子は、どうだ』とフィルの機嫌を損ねないように、おずおずとした口調で訊く。
けれどフィルはベッドで宙を見つめたまま、ただぼんやりするだけだ。
ベッドの傍らに座り、特に何も話しもせず、レガートは、持ってくる小さな果物の入った籠をテーブルに置いてフィルを見つめ、『また、来てもいいか?』と訊く。
いつも、フィルの答えは無いのは解っているはずなのに。
しばらく黙り込みレガートは、小さく『すまない、フィル。また来るから』と言う。
レガートの持ってきたものはフィルは食べない。嫌悪感しかなかった。
愛なんて夢を見た自分は何て馬鹿だったんだろうとフィルは思う。
永遠なんて、ないのに。
言葉ではなんとでも言える。 食欲がないのが、今のフィルの悩みだ。
レガート以外の人の差し入れは少しだけしか食べられないけど、頑張って食べる。
あの食事を思い出して吐いてしまうことが多いけれど。
レガートには苦しんで欲しい。
罪を悔いても、
消えない傷と
後悔と贖えない罰として心の中に棲み続けてやりたいとフィルは思う。
でなければあの三ヶ月が報われない。その思いは変わらない。
今、フィルがレガートにあるのは、
歪んだ憎しみと、
身体と心が怯える痛みの記憶。
それと、
過去形の『愛してた』
そして『愛されていた』
ということ。 ふっと、フィルはため息を吐く。
部屋が広い。何が足りない。フィルを見つめる柔らかな目差しが、
柔らかな声が。
『おはよう、フィル』
そう言い額に口づけをくれてフィルの髪を梳く繊細な指先が足りない。
あのひとが足りない……。
冬の空気が部屋を満たしていく。魔法陣の炎が焚かれて、部屋は暖かいはずなのに、
空気が蒼白く感じる。
フィルは手首の消えた傷を見る。
目を瞑りレガートの名前を呼んだ。
今のレガートにあるのは罪悪感だ。
今のレガートにあるのは愛じゃない。
そしてフィルを『愛してる』と言っても、結局あのひとは優しくしてくれる人なら誰でもいい。
第二のフィル、
第三のフィル。
代わりはいくらでも居ると思ってしまう。フィルは、
「『ずっと愛してる』、か。僕は愛していたんだけどな『死』さえ否定されて………」
そう言い手で顔を覆う。
笑いながら涙がこぼれた。
そして、レガートの今の想いに一番こだわっているのは、自分自身だとフィルは気づいた。
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