妖精の園

カシューナッツ

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【第53話】ゆるされないこと

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『簡単に言えばフィルとあの娘が入れ替わっていたようにお前には見えた、とな?そして記憶が朧気で、ほとんどない………と。何故自分があんなことをしたのかも解らないと』

 『面目ありません。最後に見た光景がそうでした。そのぐらいしか解らないのです。記憶が……幾つかの写真のようにしかないのです……』

レガートは片ひざをついた。 

『そして、さらに真実を言えば、クレシェンドがフィルに化けていたと。そして、本物のフィルは、あの例の娘に見えていたと。……本当のフィルはお前の扱いに悲しみ自害しようとしたが一命は取り留めた。
しかし妖精の気が足らない。……親衛隊の副隊長リトルダンドを呼べ』

レガートは、大声を出した。 

『妖精の気なら、私からいくらでもフィルに!』

『それが、アルトがお前に猛烈な嫌悪感を抱いている。あれは早世したフィルの両親の代わりにフィルを育てた。挙げ句、お前の大失態だ。戴冠式には来ない。フィルのお披露目も無し、フィルとお前の婚約披露の儀も無し。扉を開けたら裸の知らない娘。しかも正体は私とアルトを引き裂いた魔女ときた。しかもフィルは餓死寸前に痩せこけて、身なりも汚れ、アルトが最も恐れている『時間の経過』まで起こっている。しかも、フィルは心痛のあまり自害まで。そのフィルに『死ぬならよそで死ね』? 普通に考えても、これは婚約解消にあたる。それに、今のフィルの一番の信頼は親衛隊副隊長のリトルダンドだ。王家に戻らせフィルの結婚相手にもいいかもしれないと、アルトと話していた』

『そんな………』 

消え入るような声でレガートは言う。王さまは厳しい口調で繋げる。 

『フィルに会いたいか?』

 レガートは小さくい頷いた。 

『フィルは会いたくないと言っているが』 

『会って、謝ることをお許しください』

『……この部屋の中の、私の安息の魔法がかけてある部屋の私の休憩室にいる。一時的に、傷の手当てなどを行った。最初、死んでしまいそうなくらい衰弱していたのに私から気を受けとるのさえ拒否した。震えて、部屋の隅に床を這い逃げて、蹲って泣くのを……見ていられなかった。意味が解るな?……お前と私は同じ顔だからだ。その見分けがつかないくらい精神も耗弱していた。お前に会えるような精神状態ではない。一ヶ月待て。リトルダンドに妖精の気をわけて貰い、今の状態を脱してからだ。
ついでに言っておくが……』

 レガートは、厳しい王さまの声に、レガートは硬い表情で俯く。 

『謝って全て許されると言うのは傲慢だ。一生をフィルへの贖罪に捧げる覚悟なのか?私は、アルトに全てを捧げると決めている。お前はフィルを踏みにじってきた。記憶は早めにフィルに眠りの術をかけ、生命の珠から見るのだな……。私を見て怯えるほどフィルの傷は深い……
『フィルを痛めつけた理由がわからない』『生命の珠を壊され記憶がない』
で済む問題ではない。
お前はフィルの心も身体も殺した。自害は私は最後のフィルの証だと思う。お前へのな。罰かもしれない。一生を悔いて生きろと。それをも、お前は否定した。覚悟をもって会うんだな。簡単にお前の罪が許されると思うな。それにしても生命の珠がないのに記憶の破片が残るとは、面妖だ……』






ふっと部屋に風が入る。
鈴が鳴る。誰か来たのかとフィルは身体を起こすが、身体中が痛く力が入らない。ああ、死ねなかったのか。
そう思って手首の縫った痕が生々しい傷を見る。 

『フィル!』

 現れたのはリトだった。

 『話は聞いたよ。まあ、一応俺も王さまの従兄弟だしね。親父が「王族は面倒だ」って言って王族の地位を捨てちゃったんだ。まあ、多少の優遇はして貰ってるけど。安心していいから。『妖精の気』を分けれるくらいの力はあるからさ……つらかったろ、フィル。泣いて良いんだぞ』

かけられる優しい言葉。
ポロポロ、と安心して泣いた。
久しぶりにフィルは泣いた。
前は泣くことさえ出来なかった。 


「リト……」 

『気ならたくさんあげるから、早く元気になれよ。ドラゴンのチビ、だいぶデカくなったよ。金色の火も出せるようになった。
元気になったら見に行こう。今は休んで』 

リトはフィルの手を取る。ほんのり暖かなビオラの花のような癒しの力が身体に入る。力をくれたリトは少し疲れの色が見えた。 

「ごめんね、リト。疲れた顔してる」 

『……大丈夫。隊長も、馬鹿だなぁ。こんなに可愛いくてやさしい花嫁さんほったらかして』 

リトは優しく髪を撫でてくれた。

『眠って』

と言って、フィルが教えた、ドラゴンに歌ってあげた子守唄を歌ってくれた。リトは音痴でフィルは笑ってしまった。
笑いながらまた涙が滲んだ。




あれから定期的にリトが来て『妖精の気』を分けてくれた。
リトは優しい。
傷には触れない。
その間フィルは眠り続けた。

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