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【第50話】麦の嘆願
しおりを挟むどれくらい経っただろうか。時間の感覚が解らない。ただ、長い月日に感じた。
フィルは大人の女性になった。
レガートから妖精の気を貰えてないからだった。
しわくちゃになって死ぬのかなとフィルは自嘲する。
毎日寝るのは廊下。
お風呂も、まともな食べ物も貰えてない。
今日もドアの向こうは二人の情事の声。
フィルはレガートがまだ何処か捨てきれない。金色の灯りは燻り残る。
いつかレガートは気づいてくれる。夢から覚めるように。
その儚い望みが消えなかった。
でも、もうフィルは限界だった。
あるのは蔑まれ痛めつけられる毎日。レガートがフィルを見る日は来ない。
レガートはフィルを必要としていない。もう夢なんか見てはいけない。
認めなければ。想いに永遠はない。
レガートには所詮自分はその程度。
初恋の人の方が大事。
毎日レガートと薄桃色の髪の妖精はフィルを傷つけて遊ぶ玩具のように扱っていた。毎日毎日、フィルは身体の水分が渇えてしまうほど泣いた。
ある日、辛気臭いと泣くのも禁じられた。
『泣いたら鞭で打ったらどう?』
と娘の妖精に言われたレガートは泣き濡れたフィルが見上げる視線を無視して
『言い考えだ』
と言った。三回打たれた。 どれも娘の妖精が、
『泣いてるわよ、レガート。鞭打ちにするんじゃなかったの?早く見たいわ』
と言った。フィルが鞭でレガートに打たれる間、娘は
『良い眺め……』
と言いレガートに鞭で打たれるフィルをうっとり乱れたベッドに腰掛け足を組み、これ以上もなく愉しそうに見ていた。
一回の鞭打ちが終わるのは娘の妖精が飽きるまでだった。
「フィ、フィルかい?どうしたんだい?」
「お、おばあちゃん……どうして?」
「ベランダに麦の種が来て、しきりにお前の名前を呼んで『助けて』って泣いて叫ぶからね、急いできたの。フィル、背中! 酷い傷だよ!膿んで炎症をおこしてる!それに、こんなに痩せて……死んでしまうよ。熱まで出てる!どうしたんだい? そんな所で寝て、使用人の服を着て。垢だらけで、お風呂に入ってないの? レガート様は? 中で女の人の声が聞こえるけど……話してごらん。怖くないから。これを握って」
おばあちゃんは懐の小さな革の袋から金の指輪を出した。
「初恋の人を生き返らせて貰ったんだって………」
フィルは、今までのことを初めて、話せた。金の指輪のせいだろうか、泣きじゃくりながら言った。
つらい、苦しい、悔しい!
あんなに愛していたのに!
愛してると言ってくれたのに!
そんなレガートへの募った憎しみが、
いつかは、また自分を見てくれると思っていた自分の愚かさが、
惨めに縋る過去の美しい思い出が、
フィルの溜まっていた感情が決壊した。
「妖精の国になんか、来るんじゃなかった! レガートなんて好きになるんじゃなかった!」
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