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【第48話】失われた想い
しおりを挟むフィルは親衛隊に復帰した。帽子は脱いで任務に行くと皆驚いていた。
髪はレガートとお揃いの飾り紐で結わえた。レガートは今までの長期休暇の理由を改めて説明した。フィルはレガートのこういう正直で嘘がつけない生真面目さが好きだ。
ずっとリトがニヤニヤしていて、レガートは苦い顔をした。フィルの花嫁の養育係だったこと、フィルと恋に落ち、叶わぬ恋と諦めていたが、王様から論功行賞でフィルを賜ったこと
それから、二人で過ごす時間が欲しくて、冬が来る前に幼い頃に育った家でフィルと一緒に過ごしたかった、と。
私用の我儘の件もある。すまない。と頭を下げた。親衛隊の皆が『氷の将軍』の氷が溶けたと囃し立てた。照れ臭いけどフィルは嬉しかった。
レガートと仕事が出来ることが誇らしい。親衛隊のピンをつけるとき、
そう思った。出産に立ち会ったお母さんドラゴンと赤ちゃんドラゴンに会うのが楽しい。赤ちゃんドラゴンはフィルの名前を呼び甘える。
愉しい時間はあっという間に過ぎる。爽やかな高原の夏のような日々は過ぎ、秋の気配がしてきた。
親衛隊と一緒に収穫が少なそうな畑を廻り、唄を歌った。麦の穂が言う
『生命は廻るの。いつか私もあなたの一部になるの』
と。麦は一粒、フィルのポケットに飛び込んだ。
その日は、見渡す限りの冬を間近にした青空だった。雲一つない晴れすぎた空が、フィルは少し怖いと思った。
『衣装と宝石を身に纏ったら、王様の執務室の正面バルコニーに集合だ。案内には親衛隊をつける。フィルも自衛の魔法は教えたから、もしも魔女が来たら追い払えるはずだ。とにかく耳を貸すな。全てお前を惑わす嘘だ。後から合流する』
その言葉と、額への口づけが最後だった。おばあちゃんと王様の、民を集めてのバルコニーでの戴冠の儀式、正式におばあちゃんが王妃になる式。
レガートは姿を表さなかった。王様は本当はフィルのお披露目とレガートとの婚約披露の儀をやる予定だったと言っていた。
「レガート、どうしちゃったんだろ」
肩を落とし、フィルはバルコニーから赤い絨毯の廊下をとぼとぼ歩いた。フィルとレガートの部屋はT地路の突き当たりだ。
フィルがドアを開けると、レガートと薄桃色の髪の妖精が裸で絡み合っていた。
薄桃色の髪の娘の妖精は、はしたなく下肢を開き、レガートはその間に顔を埋めていた。娘の妖精は顎をのけぞらせながら、
卑猥な言葉でレガートを煽る。フィルは呆然とし、ドアを閉めた。ドアの中から娘の妖精の喘ぎ声が聞こえる。
『ああ…レガート…もっと……ほしあ』
妖精は、息を切らして、レガートを呼ぶ。フィルは訳がわからない。ドアは開かない。
フィルは、ドアを叩き、レガートを呼んだ。頭の中がぐちゃぐちゃしている。何が正解で不正解か解らない。ドアがしばらくして開いた。
快楽に蕩けた目をして脱力した美しい娘の妖精がフィルを見て嘲笑した。
『うるさい!騒ぐな!興醒めだ!』
そう言いレガートはフィルを思いきり蹴飛ばした。フィルは衝撃で廊下の壁に吹き飛び、思いきり背中を打った。レガートは別人のようだった。
何があったのか解らないまま、呆然とした。
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