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【第47話】幸せに形があるなら
しおりを挟むそれからしばらく沢山の二人きりの時間を楽しんだ。親衛隊長の仕事をレガートは副隊長のリトに任せ、初めて二人で長い休暇を取った。リトは、
『花嫁修業って、レガート隊長のための修行じゃないですか。もう、最初からそんな感じでしたよね。休暇楽しんできてくださいよ。帰ってきたら全隊員に酒場でのみ放題させてくださいよ!』
レガートの別邸で過ごした新鮮な時間。何処かフィルが育った家に似ていた、緑に囲まれた静かな家。
フィルが歌えば花が咲く。それに合わせてレガートは琥珀の横笛を吹いた。
庭のツェーの花が満開になった。
家の隣を流れる小川は水車を回すだけではなく、王宮の近くに通じ、エーエフという退魔の宝石の結晶が出来るとレガートは子供のような顔をして言った。
『幼少の頃、シンフォニアという魔術学者の先生と暮らした家だ。この場所は先生と私しか知らない』
王宮に私の居場所はなかった。淋しそうに遠くを見るレガートが悲しくてフィルは後ろからレガートを抱きしめた。
『フィル?』
「私がいるよ。淋しくないよ。これから私と前を向いて行こう?一緒にいれば悲しくないよ。少し寒いね。火をつけていい?」
穏やかな毎日。
エーエフの小さな結晶を見た。クリスタルのようだけれど光の角度で七色に輝く。
朝の散歩やピクニック。
外で料理もした。
フィルが作ったスープを飲みながら色々なことを話し、
月を眺め、
星を愛で、
夜は飽きるほど抱きあった。
甘い毎日に溶けそうだった。
失えない。この幸せは、失えない。
満たされて、
安心して、
心の底から安らげる。
「レガート、今、幸せ?」
『ああ。怖いくらいだ。こんな幸せがあるとは知らなかった……穏やかだが、静かに熱い』
「私も。妖精の国に来て良かった。レガートに会えた。レガートを好きになって良かった」
王宮に帰ってからも、
朝と夜は一緒にご飯を食べた。
朝は
フルーツとミルクティーとドライフルーツとナッツが入ったパンと野菜のスープ。
夜はレガートと二人で作る。たまにドーナツも作った。毎日が充実して楽しかった。穏やかに、でも好きだという、いとしさの熱量は増していく。
いとしい、あなたが好きだよレガート。
涙が出る。夜泣いてしまう。永遠は、限りがあるから尊いのに、解っていながら祈ってしまう。どうか、ずっとこの人の傍に居たい。
ずっと一緒に、2人の想いは変わらない。そう、フィルは思っていた。
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