妖精の園

カシューナッツ

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【第42話】レガートへの降嫁

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いつもニコニコしている王様しか見ていなかったフィルは王様の威厳に立ち尽くした。
皆、謁見の間から退出する中、
王様が 『フィルは残れ』 と言った。
  
玉座から立ち上がり、白地に銀絹糸のドラゴンの刺繍の施したに衣装に五連の黒真珠の首飾りの準正装をした威厳のある王様を初めて見た。

今は、いつもの柔らかい笑顔を浮かべ席に通す。

『やっと二人が幸せになれた。長かったな。レガートも術師とし、力を解放された。フィル、レガートの爪の傷を治してくれて礼を言う。力を封じ込めていた朱い爪からも解放された。レガートを呼ぶか』 

「王様、私に力の増幅なんて………」

自信はなかった。翡翠の指輪も『そういうものだ』と思っていた。

『爪の再生とは、中々出来るものではない。集中増幅の力が必要だ。なるべくなら早く反魂の儀は行いたい。『狭間』にいるうちにしか反魂は出来ないからな』 

王様は、妖精の国を統べる王であると同時に、最高の神官だ。力は王の血に近ければ近いほど強い。とすると、双子のレガートは……。 

『今レガートのことを考えたな?』 

「心をお読みに?」

フィルは少しムッとした顔で言ってしまう。王様は、そんなフィルの顔をみると柔らかい表情になる。王様は前に、

『へつらわない猫のような所が良い』

と言っていた。レガートには一生懸命、 

『こっちを向いて』

と縋りつくように、顔色を窺っていたのに、大きな違いだと、フィルは自分を省みて、うなだれる。

『フィルの思っていることは全て顔をみれば解るな。レガートとは、つらい日々が続いたな。だがこれからはうまく行く。不憫な思いばかりしてきた弟だ。幸せにしてやってくれ。愛してやってくれ。そうそう、『毒味』は良かったか?』

王様は、笑いをこらえながら楽しそうにしている。

フィルは恥ずかしくてたまらなかった。
フィルは傍にあったテーブルのタカタカの実を「失礼します」と頬張った。

しばらくすると憂鬱な面持ちで、レガートが現れた。

緋色のマントと黒の軍服の親衛隊長の正装に身を包んだレガートはとても綺麗だと、物語の世界から抜け出てきたようだと思う。

何処か影があり、
愁いを帯びて、目を止めてしまうような不思議な魅力がある。

フィルはレガートに飛び付いた。
困惑した顔でレガートはフィルの背中に回した腕をほどく。

『フィル。王様の御前だ。花嫁たるもの礼儀をわきまえよ』 

「王様の花嫁じゃないよ。レガートの花嫁だよ。旦那さま、なんてね。ずっと、ずっと……一緒にいられるよ、レガート………」

フィルはレガートの腕にぎゅっとしがみついた。

レガートに話しかける声が段々涙声になっていくのが解る。
多分、最終的に王様はこうなる筋書きをたてていたんだとフィルは思った。

『フィル……。王様、いや兄上。どういうことかご説明ください』 

『……私はアルトしか愛せない。それに、花嫁として迎えられないからと、伽人などとしてフィルを置くなど、もっての他だ。レガート、私の花嫁を降嫁する。論功下賜だ。幸せを掴め。ところでだ……お前の力を貸して欲しい。フィルもだ。今レガートがしている指輪には守りと癒しの力があるが、爪を再生させるほどの力はない。フィルは人間だが魔力がある。そして、魔力を力を増幅させたり変化させる力があるようだ。……それにレガート、お前自身、朱い爪によって封じられていた力の解放が自分では感じられるはずだ。秘してはいるが、私と同等。お前の気が滞りなく身体を巡っているのが見える。反魂の儀式は60日後位が月齢がいい。協力して欲しい』 

解りました。兄上……。
そう言い、レガートは王様に頭を下げた。

フィルも頭を下げた。

王様は、 

『表をあげてくれ。無理を頼んでいるのは私の方だ。フィル。人間の気を秘密裏に集め、すまなかった』

フィルは首を振り、王様はフィル達の肩に触れた。 

「王様、私は、何を………」

『ただ、祈ればいい。こちら側へ戻って来てくれと。レガートの指輪をしている指を握り、祈ってくれ。 これで、やっと婚約だな。まあ、まだ披露の儀はしていないが、大臣には宣言した。無事アルトの反魂の儀式が済んで落ち着いたら、アルトの立后の儀とお前の立皇嗣の儀、フィルの披露の儀と忙しくなる。今のうちに、フィルとの時間をゆっくり楽しめ』

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