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【第40話】レガートとの別れ
しおりを挟む夜が来る。運命の、花嫁推挙。
花嫁にならなければならない。
逃れられない運命の日。
夜なんて永遠に来なければいい。
少し前まではそう、思っていた。
今は、レガートに迷惑がかからないように。自分の一挙一動で、レガートが悪く言われるのは嫌だ。
時の妖精がラッパを吹いた。ああ、時間だ。そうフィルは、手の甲で涙を拭いた。 用意してあったドレスにフィルは着替えた。
眩しい白地に、青色のツェーの刺繍が綺麗だ。
しなやかなドレスの生地はフィルの金の髪をひきたてた。
これから花嫁推挙。
重臣の前で王様が宣言する。
フィルはレガートとの思い出がつまった部屋の扉の前から動けずにいた。
後ろには穏やかな寝息を立てるレガートがいる。このひとと、もう会えない。
触れることもない。
これが最後。
これで最後。
そう自分に言い聞かせ、フィルは眠るレガートの形の良い額に口づけた。
「……レガート。私、レガートに会えて幸せだったよ」
そう、言い終えた途端、フィルの瞳からは堰を切ったように涙が流れ落ちた。
眠っていると思っていたレガートに抱きよせられ、フィルはレガートに覆い被さる形になる。
暖かい、清々しい甘い香りがするレガートの身体。
耳元で囁くようにレガートは言った。
『……いつまでも、愛している』
「レガート……さよなら。忘れないよ。私、レガートのこと、ずっと忘れないから。だから、お願い。私のこと、忘れないで。これから誰かを好きになっても、私のことも、忘れないでいて」
フィルは泣きながら扉を開け、
泣きながら走った。
けれど謁見の間の前で立ち止まる。
荘厳な作り。
怖いくらい壮麗な重たそうな緋色の扉。
手の甲で涙を拭き、
呼吸を整えると、
ふわりと衛兵の妖精が現れる。
『フィル・フェルマータ様、皆様お揃いです』
ギィィッと低い音を立てて扉が開く。
皆透明な羽根、
薄い青や緑の髪の威厳のある妖精たち。
フィルを見てざわめきが起こる。
王様は難しい顔をして奥の玉座に腰かけている。
『全員揃ったな』
「遅れて、申し訳ありません」
フィルはペコリと頭を下げた。
『気にしなくてよい。病みあがりで大変であったな。森の瘴気は身体に悪い。毒味も済んだことで花嫁推挙の儀を行おうと思っていたが、私には諦めきれぬ望みがある………やはり私が結婚を望むのはアルトだけだ。フィルにアルトが亡くなりここに来て約三ヶ月と聞いた。反魂の儀式を行いたい』
王様がそう言った瞬間、
皆がまたざわついた。
重臣の一人の妖精が一歩前に出て恭しく頭を下げた。
『恐れながら王さま、アルト様の反魂の儀式には、人間の気と、アルト様の生前拠り所にしていた遺品。そして、かなりの力をもった術師が必要です。失礼を存じて申し上げますが、今の王様だけでは儀式を完遂することは……難しいかと。そして、まだアルト様が空へ行っていないことが前提です』
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