妖精の園

カシューナッツ

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【第38話】花嫁推挙**

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 朧気な記憶。白い指で髪を撫で微笑み、額に、頬に口づけ

『怖くない。愛してる』

とレガートは言った。
その後は陶酔。フィルにはあの時、レガートしか考えられなかった。

感じられなかった。 
この人にもう会えるのは式典のときだけになる。別れる前に、レガートを身体に染み込ませたい。

そして、
視線、
瞳、
綺麗な鼻梁、
さらりとした清潔感がある口唇、
数えきれない欠片を拾い集め、独り後宮でレガートの夢を見続けようとフィルは思った。 

『何を悩んでいる?フィル』 

「花嫁修業も、もう終わるね」 

『……そうだな』 

「残りの日は、この部屋にいたい。ベッドでお話したり、じゃれあったり、最後の想い出をつくりたい」

 いくら王様の双子の弟で親衛隊長といっても、重臣会議の『花嫁』の推挙をされたら、 もう、今のようには会えない。
それに元々掟として、外から来たものは王様のもの。 

フィルが一つ気になることは王様と交わした言葉の数々だった。
フィルとレガートとの想いを読んで微笑んだ王様。結果的に別れ別れになるにしても、傷ついたレガートのために夢を見させてあげたかったのだろうか。

でも、あまりに残酷すぎる。
触れることも許されない関係になってしまうのに。
フィルがしょんぼりしていると、
レガートは寂しそうに微笑んだ。 

『愛しているよ。ずっとお前が好きだった。修練の時からの態度は謝りたい。でも、フィル。ふとした仕草、羽ペンで書く可愛らしい字、横顔。忘れたくなくて、ずっと見ていた。どんなに好きでも、私の婿にはならない。だから、見ていた。少しでも多く、お前を覚えておきたくて。たくさん意地の悪いことをした。そして言った。だが、決してお前を嫌ってしたわけじゃない。信じて欲しい』

 そうレガートは言うと、フィルは黙った。パチパチと火が燃える。

恋は火のよう。
おばあちゃん、私はもう、後悔はないよ。想った人と結ばれた。
悲しいけど満たされてる。
フィルはつらそうなレガートを見つめ

「もういいよ」

というように、首を振った。レガートはフィルの手を握る。 

『……私はお前と出会った森で、泣きながら笑うお前を、翁の姿で見たとき、
胸が切なくて締めつけられるようだった。あまりに美しく、悲しいと感じた。もう、恋はしないと思っていたのに、夢中になってしまう自分がいた。……けれど、これからのお前には、私の存在はあってはいけないものだと、自分はただの『養育係』だと割りきり冷たく接し続けた。沢山泣かせた。すまなかった。つらい思いをさせた。すまない。そして、こんな私を愛してくれて、礼を言う……ありがとう』

 フィルはレガートの両手をくるむように両手で包む。じっとレガートを見つめる。このひとはやさしすぎる。
あまりにも純粋で不器用で。

フィルから口づける。触れるだけの軽いもの。 

「もう、過ぎたことだよ。悩まないで。レガートは悪くない。
レガートのことを考えないで、いじけてた私が悪い。レガートは悪くない。何にも悪くないよ」 

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