妖精の園

カシューナッツ

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【第37+α話】フィルの目覚め (1)

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『失礼する、フィル』

 眠るフィルの夜着をはだけさせる。随分細くなってしまった身体を見て胸を痛ませながら心の臓の辺りに三つの珠を押しつけると、フィルの身体に珠は吸い込まれ、フィルの身体は金色の光に包まれた。

不思議なことにナイフで切って短くなった金の髪が、窓から差す月の光に煌めきながら、するする伸びていく。

長く長く、腰よりも長く。淡く光に包まれ見とれてしまう。 あまりに不思議であまりにも美しい。
ゆっくり、フィルは胸の辺りの暖かさを感じながら目を開ける。

心配そうな顔をして、祈るようにフィルの手を握るレガートに淡く微笑んだ。 

「……レガート、ありがとう。私、生きてる。生きてて良かった。レガートに会えた。私……レガートが好きだよ。ずっと好きだったよ。だから苦しかったよ。でも、ごめんなさい。私、自分勝手だった。自分しか見えていなかった。レガート、…ごめんなさい、ごめんなさい」

 『謝らなくていい。フィルは悪くない。悪くないんだ』

 両手で縋りつくようにフィルはレガートの首筋に腕を絡め、レガートは力を込めてフィルを抱きしめた。

フィルは身体を少し起こし、力の入らない腕でレガートの背に手を回す。

ベッドに金色の雫が転がった。


 「ドーナツ……食べてくれた?」

 『ああ、美味しかった。まだ残っているからゆっくりお茶の時間に食べよう。あと……また、料理を作って欲しい。私も手伝わせて欲しい。また、二人で食べたい。親衛隊が……羨ましかった』

 フィルはレガートの腕の中で何度も頷き、ベッドに身を起こし腰かけるレガートの隣に座る。レガートはフィルに頭を下げた。 

『今まで、すまなかった。許してくれ。こんなに苦しめるつもりではなかった。私は『想いなど、なくなればいい』と。『私情は挟むな』と、そう思っていた……そこが間違いだった』

 レガートはフィルの頬を手の甲でそっと撫でた。 

『沢山の思い出を作るべきだった。修練のあと、以前のように過ごして。二人で暖かい食卓を囲み、ベッドで気恥ずかしいがくっついてお互いで暖をとって。私の庭に行きたかった。今はどの庭より美しい。そこで思った。二ヶ月後どうなる?……あとは今までの通りだ。嫌われていれば、別れを悲しまなくてすむ。だから想いなどなければ……と。花嫁と養育係。結ばれはしない。心を殺して、冷たくあしらった。……間違っていたんだな。どれだけ私の浅はかさでお前の心を傷つけたか、どれだけ苦しめたか……』 

フィルはレガートの腕にしがみついた。 

「平気だとは、言えない。……傷ついたよ。好きだったから。気持ちを消そうとした。でも、消えてくれなかった。ずっと、苦しかったよ、悲しかったよ。レガート、レガート……」 

腕にしがみつき、瞳を潤ませ鼻を啜る、まだうら若い少女。恋したことに後悔はしていない。

レガートには全てを捨てる覚悟はできていた。 

「レガートは養育係の先生としては完璧だった。ただ私は、いつも通りのレガートがいなくなっちゃって、冷たくて、嫌われたと思って、……ごめんなさい。子供が駄々こねているのと同じ。恥ずかしいね、本当に」

 震えるフィルの語尾に、レガートはフィルを抱きしめる。 

『もう何も言うな。……フィルとなら王族から庶民になって王宮追放の刑でもいい。二人で生きよう?小さな家を建てて、フィルは唄を歌って、花を咲かせて、イモも作ろう……夢物語か?だが夢は持たなければ叶わない』 

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