妖精の園

カシューナッツ

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【第34話】魔女クレシェンド

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波打つ草花、どこまでも続く草原。
遠くで誰かが呼んでいる。
おばあちゃんだ。

懐かしい声。
姿を見つけフィルは駆け寄り抱きしめると、おばあちゃんは泣いた。 

『まだ、こっちに来るには早いよ、フィル。私も空へのお迎えがまだ来ないから、偉そうなことはいえないけどね。ここは『狭間』だよ。早くお帰り』

 おばあちゃんはフィルを抱きしめる強さをつよめ、 

『お前がおばあさんになったら空においで。幸せを掴んでからおいで』 

おばあちゃんは、そっと腕をほどきフィルの手を握る。おばあちゃんの手はいつもみたいに温かい。 

『帰り道は朱い花。あの方はお前を愛しているよ。深く深く。お前が思っているよりもずっと』

 そう言いおばあちゃんは煙のように消えてしまった。

 『おばあちゃん!』

 消えてしまった煙を抱きしめると、いつものミルクティーの匂いがした。 どうしてだろう。草原にいる。

何故ここにいるんだろう?フィルは辺りを見渡した。
綺麗だけど知らない場所。何でここに来たんだろう。

取り敢えずここにいちゃだめだと肌で感じる。朱い花を目印に草原から森へ。

森にも朱い花が咲いている。森は薄暗く、朱い花を見つけるのに苦労した。
森を出たら光が差した。月明かりなのに眩しい。

 『フィル!フィル!気がついたか!』 

「レガ、ト?ごめ…んなさい……ごめんなさい」 

『いいんだ、そんなこと。フィル、フィル?』

 一筋涙を流し、途切れ途切れの言葉を残し、フィルは眠りについた。
流石に、三日続いたフィルの眠りに流石におかしいとレガートは魔法学者の重鎮シンフォニアを訪ねた。

シンフォニアはレガートの幼少時代の養育係だった。父のように慕っていた人だ。のんびりシンフォニアはポポの実のジャムの入ったお茶をだした。 

『落ち着きなされい、将軍。気の乱れがひどい。お茶を飲んで気を鎮められよ』

こんな時に落ち着いていられる者を見てみたい思いつつ、茶を飲みながらつぶさに今までのことと、フィルの状態をレガートは話す。 

『私のせいです。全部私せいだ……』

 シンフォニアはパチパチと瞬きをしレガートに聞いた。 

『和解はしましたか?将軍』 

『先に空で待ってる。と。好きだったよ。と言ってくれました』

ふむぅ。自分で壊してはいないと……と小さくシンフォニアは言った。

 『どうやってフィル様をお探しに?』 

『ドラゴンの子供に探してもらいました。 出産に立ち会い、フィルに懐いていたので匂いを追わせました』

ふむぅ。ドラゴン……そう言いシンフォニアは黙り込んだ。

 『森の魔女に生命の珠を盗られた可能性が』 

『どうしてクレシェンドが関係あるのですか?』 

『ドラゴンは生態系の頂点です。他の獣はその気配すら恐れ近づくことすらしない。ドラゴンの火は聖なる炎。力自慢の獣も焼かれ死にたくはないですからな。子供のドラゴンでも然り』

ズズッとお茶を啜り、シンフォニアは続けた。

『魔女はドラゴンの聖なる火をあびても酷い火傷はしますが、自分の魔力で治してしまいます。それに生命の珠は落としても少なくとも五日で再生するものです。五日待ってフィル様の記憶が戻らなければ、生命の珠は魔女クレシェンドが持っていると』

レガートはため息と共に部屋に入る。フィルはベッドの隅で丸まって寝ていた。テーブルを見るとフィルのドーナツ。

フィルはどんな気持ちでこれを作ったのか。一つ手に取る。食べるとほどけるような懐かしい口あたり。

優しい、
切ない味がした。

 『フィル……』

 願い続けて五日目。フィルはずっと眠っている。
シンフォニアに最後に言われた言葉を思い出す。 

『眠りについて、十日以内に生命の珠を持ち主に返さない限り、珠の主は空へ旅立たれます』


  
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