妖精の園

華周夏

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【第13話】いとしさの諦め

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その次の日の修練、科目は剣術。

レガートは部屋に戻ってこなかった。代理にリトが来て中庭で修練をした。リトは飄々としながらも、ものすごく強い。

さすが、親衛隊『副隊長』なんだと、改めて気づかされる。

 『中々フィルは筋もいい。隊長から仕込まれただけあるな。親衛隊なら中隊長クラスだ。隊長は今日はドラゴン語の勉強会。まあ、国で一番ドラゴン語が解るのはフィルだけどな』

修練後、フィルはリトを部屋に通す。とりとめのない会話を楽しんだ。誰かとまともに話すなんて久し振りだった。

二人でソファに座り、用意しておいたミントティーを水筒から出し、リトに差し出す。
いつもレガートが飲んでくれないと解っていても、フィルは武芸や長時間の修練にはお茶を二人分用意してしまう。

リトは美味しそうに喉をならして飲む。 

『かーっうまい。やっぱり運動後はミントティーだな。ありがとな、フィル。隊長さぁ、この前生まれたドラゴンのチビに嫌われてて大変だったよ。隊長、思いっきり火を吹かれて、耐熱のマントが焦げたんだから。マント泣いていたな。あの親子、フィルにすごく懐いてるからな。たぶんあのチビ、隊長がフィルをいじめてるって思ってるんだろうな。ドラゴンは一度嗅いだ匂いを忘れないから』

 「……そう」
 『……隊長のこと……訊かないんだな』 「もう、無理だって…無駄だって気づいたから」 
『その机にある青いツェーのブーケ、隊長…朝早く来て作ってたよ。……隊長はお前が好きだよ。じゃなきゃ……』

 リトの言葉をフィルは淋しそうに微笑んで遮った。

 「……ただのご機嫌取りだよ。それだけ」 

リトが帰ったあと、フィルは、ブーケを抱いて窓際の椅子で微睡む。レガートが解らない。でも、この花たちの声に耳を澄ますと、 

『ずっと悲しい顔をして、誰かに『すまない』って言ってたの』

 ツェーの花はしょんぼりして、

『あのひと、可哀想なひと。愛されたことがないから愛しかたが解らないのよ。ずっと傷つけられてきたから』

お喋りな一つの花がフィルに話しかけた。

 『あのひとを助けてあげて。愛してあげて』

 フィルは言った。

 「もう、遅いよ!レガートが僕に悪いと思うならここにいる。君たちを直接手渡して『すまないフィル』って言ってくれてる!レガートだって、ただのご機嫌取りじゃないか!『花婿様のご機嫌を損ねると大変だからな』なんて愛してる人に言わないよ!」

 フィルは思いきりツェーのブーケを床に叩きつけた。花びらが舞った。

『痛い……痛い……』

 と言ったツェーのブーケを胸にだいてフィルは泣いた。声をあげて泣いた。 

「ツェー……ごめんね、ごめんね……ごめんなさい………」

──────────《続》
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