妖精の園

カシューナッツ

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【第15話】妖精王──レガートの兄

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 他にも出入りできる場所はあるのだろうが、面倒なので窓を開けてヒョイと外へ出ると、五月女も同じようにして後をついてきた。
 玄武と空狐を連れて、天狐や朱雀が捕まえているモノたちのところへ行く。


「貴人、太陰。そちらは大丈夫か?」
『舞さんの部屋に真くんも居ます。無事です』
「ではそのまま待機」
『御意』


 瞳は、さて、と腕を組みながら五月女の方を見る。


「どうしたいですか?」
「えっ?」
「処罰とか、そういうの」
「ええ?」


 全く考えていなかったのだろう。ポカンとする五月女をよそに、瞳はそうだ、と思い出したように呼びかける。


「騰蛇、生きてるか?」
『どっちが?』
「両方」
『生きてるはずだ』
「とりあえず、両方連れてこい」
『御意』


 言うが早いか、騰蛇は肩と小脇に大人の男を一人ずつ抱えて現れるから、五月女の方が驚いている。


「五月女さん。今回の首謀者です」
「え? あ!」


 どうやら見覚えがある顔らしい。


「ご存知の方ですか?」
「はい。こちらの方は確か九条グループの新社長だったかと」
「新社長、ということは……」
「はい。代替わりしたばかりです」


 瞳はうーん、と唸った。
 どうしたものか。この新社長であるところの九条一臣、加護がないばかりか守護も大したものではなく、オマケに妖精たちもほとんど付いていないのである。
 これでは社運が傾くのも仕方がないと思えてしまう。


「えーと。今回はオレの押しかけですけど、本来ですと最終的にどうしたいのかを具体的に依頼してもらうんです。術が使えないようにするとか……」
「自分は、西園寺に関係する人たちが無事ならそれでいいです。あ、九条はその中に入ってません」
「ふは」


 潔いほどあっさりしている様に、瞳は思わず笑ってしまう。
 そうだな、と考えてから提案する。


「九条達也の術は全て封印しましょう。コイツは悪質ですからね。それから修二も同じく。九条一臣は、西園寺の当主に判断を任せる、でどうです?」
「問題ないと思います」
「では、それで。それから……」


 言いながら、瞳は修二の式神らしいソレに視線を落とす。す、と片膝をつくと視線を合わせた。


「主。汚れる」
「いいから。……お前、なんでこんな奴の式神なんかやってる?」


 問いかけるのは、なんとか人型を保ってはいるが、イヌのような耳が頭について、しっぽまで生えたなかなか珍しいタイプの式神だった。まだ若いのか、人間でいうところの中学生くらいの見た目の少年のようであった。


「好きでやってたわけじゃない……」


 なぜか泣きそうになるから、瞳は慌てる。
 人間であっても式神であっても、泣かれるのが嫌なのは変わらない。


「あっちの世界から無理矢理呼び出されて契約させられたんだ。もうヤダ」
「わかった。お前の契約も切ってやる」
「主」


 玄武にたしなめられるが、その方がいいに決まっている。術が使えない術者と契約が切れないままだなんて、式神の方が可哀想だ。
 玄武は、はぁーっと大きくため息をつくと、お決まりのセリフを言うしかない。


「だからあなたは甘いというんです」


 まあまあ、と笑いながら瞳が式神の頭を撫でてやり、その次の瞬間に大きな何かを切るようなバツンという音がした。


「あれ?」
「切れたろ?」


 何か、とは、正しく術者と式神との契約の事だった。
 式神は、頭の上の耳をぴくぴくさせて自由を取り戻したことを認識している。


「俺、あんたみたいな人の式神になりたい……」
「悪い、満席だ……」


 感動したのか尊敬の眼差しで見られても困る。これ以上式神が増えても大変なことになる予感しかない。お断りしたい。


「また誰かと縁があることを待つか、自分で探せ」


 そう言い置いて、立ち上がる。


「さて。舞さんと真くんはどうかな」
「あ……」
「二人とも舞さんの部屋に居るようです。行きましょう」


 玄武たちに、あとは頼むと任せると、瞳は五月女の案内で舞の部屋へ急いだ。
 きっと不安にさせてしまっただろう。
 五月女がドアをノックすると、待ちきれなかったというように真がドアを開ける。


「……吉田さん?」


 『仕事』モードでの対面は初めてなので、戸惑っているようだ。


「そうだよ。怖かったろ。もう大丈夫だ」
「うん……」


 腰を落として視線を合わせる瞳の目は、優しくて。
 真は思わず抱きついていた。


「お父さんはもう大丈夫だ。すぐに元気になるよ。そうしたら、たくさん話をするんだろう?」
「はい。そうします」


 抱きしめ返した背中をぽんぽんと叩いてやれば、真はずいぶんと落ち着いたようではあった。
 そんな瞳に、太陰が言い難そうに言葉を紡ぐ。


「主、あの……」
「どうした?」
「先ほど使用人の方が、主にぜひ昼食を召し上がっていただきたいと申し出がありまして……」
「え……」


 固まる瞳に、舞は楽しそうに笑う。


「旦那様を助けてくださった方ですもの。当然ですね」


 くすくすと笑う舞は、似ていないはずなのに、どこか愛に似ている気がした。
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