妖精の園

カシューナッツ

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【第11話】秘密の唄

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使用人の妖精を呼び、後片付けをして貰い、レガートはお茶を淹れる。二人で窓際の椅子にかけながら話す。

『忘れていた。これを』

レガートが仕事着から取り出したのは親衛隊の飾りのピンだった。

親衛隊の仕事を手伝うことになった。レガートの役に立ちたい。レガートに笑ってもらいたい。フィルにあるのはただそれだけだ。レガートは無愛想なようで気を遣う、不器用な性格だと思う。

黒く長い髪をたなびかせフィルを抱きかかえ、部屋のバルコニーから、ドラゴンの厩舎の近くまで翔ぶ。
厩舎まで行かないのは紫の羽根を見せたくないのかもしれないとフィルは思った。それとも、自分を連れてるから……?

こんな子供のお守り、レガートにしたら恥ずかしいのかもしれない。そんなフィルの考えを読んだように、レガートは言う。

『堂々としていろ。髪は帽子で言った通り隠したな』

「うん。レガートは私の髪は嫌い?目立つし……」

フィルの言葉を視線で遮り、レガートは言った。

『美しいと思う。前にも言わなかったか?私以外に見せるな』

と言った。厄介が増えるだけとの意味は解っているのに、胸が苦しくなるほどフィルには嬉しかった。

金色の灯りが増えていく。光が強くなる。フィルはレガートがゆっくりした自分の歩調に合わせてくれているのに気づく。フィルが見上げると、レガートは知らない振りをし目を逸らした。

『隊長。ドラゴンの餌のツェーの花が足りません。寒さによる生育不足ですよ』

『この人間のチビは?使えるんですか?ドラゴンになめられますよ。変わった《力》は感じますが』

『私の従者だ。フィルという。それと、二度とこの者に無礼な口を叩くな』

『は、はい!』

レガートはそう言い、ドラゴンの厩舎へ向かう。親衛隊の人達は、

『『氷の将軍』にも遅い春が来たか』
    とか、
『まさか、あんな子供みたいなのが好みとはなあ』

とか、ひそひそ話しているが、好奇心といった感じで悪い感じはしなかった。フィルとリト以外の親衛隊は、ドラゴンに乗ってツェーを探しに行った。フィルとリトは生育不足のツェーの生育地から使えそうな育った花を摘む。

「ごめんね、リト。居残り番になっちゃって」

リトは笑って、芝生に寝転んで言った。

『あっちで危険と隣合わせでこき使われるより、のんびり花を摘んでた方がいいよ』

ちょっと効率悪いけどね、と苦笑しながら言うリトは、少し声がレガートに似ている。やはり従兄弟なんだなと思う。

「あのね、信じて貰えないかもしれないけど、私が歌うと草とか花とかが元気になるの。試していい?」

大歓迎!と言いリトは笑う。フィルは『大地の唄』を歌った。忘れ去られた、いにしえの祈りの歌。ツェーの草はみるみる伸びて花を咲かす。瞬く間に、一面花畑になった。

『フィル、すごいな!    強力な古代魔法みたいだ!』

「人前で歌ったの初めて。………ごめんねツェー。無理をさせて」

フィルはツェーの花を労るように花を撫でた。八重の淡い桃色の花が風に揺れて甘酸っぱい匂いがする。

「おばあちゃんには、決して人前で歌うなって言われてた。この髪でさえ『呪い』扱いなのに、植物や動物に唄を歌えたら完全に魔女裁判にかけられるって」

 フィルは軽く笑って言った。リトは眉毛をハの字にして、ため息をついた。
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