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金色の赤子〖第58話〗──②
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当主の荷に父を思う。家には愛する伴侶と子。幸せだと思う。君は待っていると言ったから。帰る幸せ。
私はあなたを待つ待つ幸せ。あなたは、言ったから。『独りになんかさせない』と『ずっと一緒だよ』と。愛しているよと言ったから──。
******
あれから、月日がたち、光は、五歳になった。金の耳と尻尾。うっすら陽にあたると碧色に輝く。光は、まだ上手に耳と尾がしまえないが元気だ。耳と尾の癖は自分に似たなと、蒼は苦笑いする。しかし困ったことが起きた。
「大人になったら、そら母さんとけっこんする」
と言い出した。
「何回言えば解るんだ、空はお前のお母さんだ。母さんとは結婚できないんだ」
ため息混じりに蒼はいうが、光は納得しない。
「こんなにきれいなお母さんみたことないもん。どのお母さんより、だれよりきれいだよ」
「親子では、結婚できないんだ!それに、空は俺の伴侶だ!」
楽しげに二人のやり取りを見ていた空は、ふふふっと笑った。翠から結婚祝いに貰った時計を見て、
「旦那様、そろそろお風呂に………」
「ああ。入るか」
「ぼくも!」
「光、我慢して、ね?旦那様とお母さんで、ゆっくり話したいことがあるの」
空は相変わらず綺麗で可愛い。光を授かってから慈愛とでもいうような眼差しをする。仕事で煮詰まって部屋に帰り、
「お帰りなさい、お疲れさま。疲れたでしょう」
そう言われ、その瞳で見つめられ、微笑まれると、苛々した感情や、たまっていた鬱憤が、消えるようになくなっていく。当主の仕事は大変で、執務室で仕事をして帰るだけのことが、こんなに疲れるとは思わなかった。
けれど最近は家に帰ったら光は光で頭が痛む。空は自分の妻だ。まさか、息子にやきもきするとは思わなかった。
当主を継いでから蒼は思う。父には誰もいなかった。母を早くに亡くして、家に帰っても、抱きしめてくれる手は、無かった。
叔父は珠合わせの日、術は返り仮死状態になった。目覚めたときには蒼の父が自分の兄である以外にほとんど記憶を失っていた。今は父の隠居所で、兄弟で穏やかに暮らしている。昔の弟に戻れたと、父上は少し寂しそうに、笑った。
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