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ぬるくなった柚子茶〖第52話〗──②

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次の標的は、中野オフィスビル3階に本社を構える株式会社コルドム、その社長、古川年寄か。フッ、あのたぬきをヤればいい訳だな。

不良分譲マンションを顧客に売りつけ、顧客からの苦情を高圧的な態度で跳ね除け、今のマンションに住めないというのならと、さらなる不良分譲マンションを勧め、購入させ、そしてまた苦情…。まぁ死んで当然の男だな。顧客をお客様と見ていない、金蔓かねづるとしか思っていないんだからな。

殺して欲しいの一言も出る訳だ。

一度依頼を受ければ、俺はやる男だがな。

標的の社長は、ガラスウォールのビルだ、窓越しに座っているのがはっきり見えるぜ。

中野ビルの道路を挟んだ反対側に相馬ビルがある。その屋上に、俺がいるんだ。

このスナイパーライフル、『グランピーフ』で、お前の心臓を一発で仕留めさせてもらう。

おっと、いつも誰かをやる時は、唇に潤いをと、ハニーリップクリームを塗るのが決まりだったが。

ちなみに、俺は男だ。

徳川仁志。

50才だぜ…。

俺の師匠の教えを忠実に守っているだけだぜ…。

まぁいい、唇は特にカサカサな訳じゃねぇ。



フッ。




やってやるぜ。




念仏でも唱えろ!





ん…?






あれ?







今、足元が視界に入って、気づいたが。







俺、靴を間違えて、くまさんの絵柄のビニール靴を履いてきてしまったのか!?






こんなの、持ってねぇけどな…。








チッ。






高級イタリアブランドのエモールの本革靴を買い直したはずなのに、あの店主、間違えてくまさんの靴出しやがったな!?




俺はそれを間違えて履いてきちまった訳だ。





履き心地はどうですかとか言われたが、悪くないなとか言ってしまっていたが、近くにいた家族連れの客が目を丸くしていた理由がわかったぜ。



そうか、この靴はその家族のガキのものだったんじゃないのか?


でも、俺の足のサイズ、小さくはないけどな。

育ち盛りのガキめが!

お前の足はタイタンか!?…って言ってもわからねえだろうな。

まぁいい。

このくまさんの靴でも、俺は標的をやる!








おいおい!




嘘だろ!?





俺のスラックス、何処に行った??





パンツ丸出しじゃねぇか!?






俺、ここまで自宅から車できたが、靴屋とカフェに寄った…。


カフェの女店員が微笑んで、素敵な服装ですねとか言ってたのは、バカにしてたからなのか。




俺の事、好きになったからじゃなかったのか…?



カッコつけて、決め顔したのによ。


くまさんの靴に、下はパンツ丸出しだもんな。進化しない痛えおサルさんが来やがったとでも思われたか…?



フッ。



まぁいいじゃねぇか。




やってやるよ。





プライドにかけてな。






ん!?








このスコープ、やけに曲がるなと思ってたら…。






棒型ドーナツのチュロスじゃねぇか!?






反対側の中野ビルの標的を、俺はチュロスを通して肉眼で見ていた訳だ。もちろん、倍率は1のままだ。





フッ!







いいぜ?不運なんて、1つのファッションみたいなものだ。






もちろん、そのままチュロス越しではやらないがな。





あれ?




ねぇな。






…スコープ、何処かに忘れてきたみたいだな。





ライフルケースに、チュロスはめてきたんだろうな。





この間、街中でチュロスを買ったんだが、食い切れなかったから、手に持っていたライフルケースに納めたんだろうな。




チュロスをはめ込んだ替わりに、スコープはどうした?





…スコープは、近くにあったクズカゴの中に捨てたのか?






いいぜ、俺は気にしねぇ。





肉眼で、やってやるよ!







ん!?







俺、今日…ヒゲ剃ってねぇのか…。





やけに顎がジョリつくと思ったら…。







ダメだ、集中できねぇ!






今日は止めてやるよ…。






おめでと、社長さんよ。今日という1日を存分に楽しみな。





明日は、確実にお前の命日だぜ?





ククク…。







あ、俺、上着も着てねえじゃん…。
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