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婚礼前、溢れる幸せ〖第43話〗──②
しおりを挟む日から三日かけ、儀式に着る衣装を作ってもらうことになった。純白の絹の衣装だ。普通の着物に似ているが着た感じは軽く、鳥の羽のようだ。襟元になにか縫い付けてある。多分、護符だ。隣の部屋を衣装を覗き見る。純白の衣装を着た空は綺麗だった。思わず見惚れてしまった。
………子供の話をした時、空は泣いた。そうにいちゃんを父親にしてあげられない、と。静かに下を向き泣き続けた。
「空は悪くない。俺は空がいればいい。空は俺だけじゃ足りないか?」
「そんなことない!そうにいちゃんも……あと、爺やさんも、大叔母さまも、そうにいちゃんのお父さんも、みんな親切で大切な人」
頷いて、空は目を擦り、軽く息を吐いた。
「そうにいちゃん、皆『珠合わせ』って言うけど何するの?」
「珠合わせは、婚姻を結ぶ二人が社で一晩過ごすだけだ。外では、祝詞を夜明けまであげ続ける。狛井家の婚姻儀礼だ。簡素化された珠移しに似てるな。狛井家の珠合わせも、術の素養がないと、祝詞に負けて花嫁か花婿が臥せる。空は大丈夫だな。綺麗だ、空」
「そうにいちゃんも、素敵」
どさくさに紛れて触れるだけの口づけをした。顔を真っ赤にして、空は照れ臭そうにする。
「そう言えば、祝詞は大叔母さまが読んでくれるらしい。大叔母様のお祖母さまは、山神さまと旧式の珠移しを行った生粋の巫女だからな」
「沢山のお礼を言わなきゃね」
衣装合わせも終わり、部屋で壁を背に、熱いほうじ茶を飲みながら二人で寛ぐ。もう夜だ。もう、二人で風呂にも入った。
「挨拶回りも終わったね」
「疲れたか?」
「少し。でも、楽しかった」
ふうっと空は息を吐いた。空を見つめる。もう少しで、自分の花婿になる。不満はないだろうか、嫌なことなどないだろうか……。不安が、また顔を覗かせる。
「あ、そうにいちゃん、悪い顔」
「わ、悪い顔?」
「良くないことを考えるとその顔するよ。どうしたの?何が心配なの?」
逸らせない大きな瞳。自分だけを見て、こんな自分だけを信じる瞳。この瞳には嘘はつけない。
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