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神降り〖第37話〗──②
しおりを挟む『もう一度問う、何が足りない?次はない』
蒼は空の両肩を掴み視線を合わせた。黒にうっすら金色が混じっている、初めて見る瞳にたじろぎながら、語りかけた。
「俺は気にしない。もう、俺は黒い尻尾を気にしていない。わざわざ戻してもらったんだ、この色に戻りたいと、思ったから。それに、想いはひとそれぞれだ。解らない奴は放っておけばいい。空は全員に解って欲しいのか?俺は空を見つけられた。それだけで充分なんだ」
すうっと瞳の金色が消えていく。
「そ、そう、にいちゃ…………」
クタリと脱力し、空は意識を失った。
「これで、おわかりでしょう。叔父上。空は、山神さまの子です。空の母も穢れた巫女などではない」
腰を抜かして何も言えない叔父を一瞥し、失礼しますと一言そう言い、蒼は空を抱き上げ父の書斎を後にした。
「若様!玄関に、か、雷が!この晴れた日に!空様は大丈夫なのですか?まさか[[rb:物怪 > もののけ]]が?」
「詳しい話は後だ。俺の部屋に布団をのべてくれ。あと茶を。それと、手拭いと湯を」
爺は、小さくはしゃぐ。
「『俺』ですか。五年ぶりです。人使いが荒いのも。若様、空様のお陰ですね。働きがいがあります。この五年、ただ飯食らいでしたからな」
「爺と話すと気が楽になるな。だが事態は深刻だ。屋敷の者が怯えている」
部屋に空を運び、自分の机の横に布団敷かせ、空を寝かせた。目の届くところに、手を伸ばせば触れられるところに居て欲しかった。
次の間には寝かせなかった。小さな細い身体。何処にあんな力があるのだろう。まじまじと、空を眺める。
部屋の火鉢にあたりながら爺は言った。
「空様は、相変わらず美しゅうございますなあ。まるでお変わりになりませぬ。時が止まっているかのようです。む、目覚めそうですな。では、茶と茶菓子の準備を」
「爺、今、私の棟に来るものは、刺客か、偵察か、余程の物好きよ。雷や父上の部屋の惨状は全部空がやった」
「空様が?何故、旧知の御館様を!解せませぬ!婚礼を反対されたのですか?」
「化けて出たのは叔父上よ。しかも、父上の席に堂々座って。無礼な。しかも『兄上が居ないときは狛井家はわしのものだ』などと言う始末だ」
「……警備を固めます。それと美味しいお茶菓子をお持ちします」
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