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孤独の深淵〖第23話〗──②
しおりを挟むいつも、自分しか映さない瞳だった。暖かな眼差しは今も昔も変わらなかった。林檎のように赤い唇で『そうにいちゃん』といつも呼んでくれた。
さっきも笛を吹いて『そうにいちゃん』と。息絶えるまで、自分を呼んでた。必要としてくれていた。
なのに、誰でも良かったなんて、空の気持ちを疑って、自分の気持ちも信じられなくなって、あっという間に一番大切なものは消えた。そういえば暁が言っていた。
『……お前は疑り深いな。いつか絶対後悔するぞ。直せよな、そういうの』
後悔してる。後悔しているよ、空。
「なあ、空、昔話をしてあげるよ。聴いて欲しいんだ」
涙声で語る。自分の小さい頃の話。真っ黒な毛並みのせいで皆から疎んじられた話。『狛井家の嫡男』目あての者達の、使い分ける表と裏の顔を見すぎて、誰も信じられなくなった話。
「ずっと誰かに『本当に』必要とされたかった。そう、思っていたよ。そんなとき空に出会った。初めて誰かを心から愛しいと思った」
長い、伏せられた睫毛から滲んだ涙が、闇に吸い込まれていく。
「さっきはすまない。空の気持ちも自分の気持ちも何もかも信じられなくなった。空の気持ちを疑った。
孤独を癒せれば、助けて優しくすれば、空は俺じゃなくても良いんじゃないかって。
それに、あのときの俺自身も『好きだ』という言葉に隠して孤独を癒すために空を利用していたのかもしれないって、思った。あの頃の自分には、誰も居なかったから。
自分だけを見てくれるひとが欲しかった。最低だ。……空は俺だけを見てくれたのに。『そうにいちゃん』って呼んでくれたのに。ずっと変わらないで。こんな俺みたいな奴でも、空は信じていてくれたのに……」
空、空……。ポタポタッと、音をたてて涙が落ちた。
「そうにいちゃんが悪かったよ。あんなこと言って………もう一度でいい、呼んでくれ、空。『そうにいちゃん』って呼んでくれ………」
「………そうにいちゃん、泣かないで」
か細い声で、空は鈍く手を動かす。上手く手が動かないようだった。
「どうした?目が覚めたか?苦しいのか?解毒剤を!爺!爺!爺はどこにおる!」
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