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蒼の家へ〖第21話〗──②
しおりを挟む「名前は空だよ。それと、僕は男だよ。宜しくね、翠くん。僕、翠くんより三歳年下なんだ。年下の義兄さんなんて、変な感じだね」
年齢なんて、関係ない。男でも、関係ない。あんなに美しく優しい姿をした者がいるなんて奇跡だと、綺麗に笑う空に翠は見とれていた。あの清らかで愛らしい笑顔は、誰をも引き付ける。空は無邪気に笑いながら翠に、
「宜しく。仲良くしてね」
と握手をしていた。ぼんやり空を見つめる翠の瞳に、蒼はかつての自分を見た気がした。恋に落ちた、濡れた瞳。
「離れが俺と空の部屋だ。おいで、空」
「うん!翠くん、またね」
振り返り手を振る空を見つめる翠の目は、哀しみをこらえて笑う、つらいものだった。
半端な想いなら、ただの遊びなら、相手の気持ちも考えずに翠に譲る。でも、この想いだけは譲れない。離れへの廊下を歩きながら、蒼は空の手を握る。握った手の甲に口づけた。
「手を………離さないでくれ」
「どうしたの?そうにいちゃん。不安なことがあるの?」
「………無いよ。そうにいちゃんの杞憂だ。しあわせにするから。空を大切に思っているよ。愛してる」
ぎゅっと、蒼は空を抱きしめた。空の首
筋からは花のような甘い匂いがした。
──────────────
離れにつき、荷ほどきをする。空の袋からは宝珠が二つ、珍しい本、刺繍の道具類が出てきた。細かな美しい刺繍。桜の花がまだ途中だ。
「眼鏡のおじさんがくれたの。神社の狛犬や唐獅子とか、花とか縫うといいって。そうにいちゃんの毛並みと同じ糸もあるんだよ。今度縫ってあげる。紙と鉛筆で、下絵を書いて、それを見ながら考えて縫うんだよ」
それと、これ。お別れが急で渡せなかったんだ。ずっと、渡したかったの。僕、小さかったんだね。夜遅くまでかかっても終わらなくて、一人になる度に続きを作ってた。こんなので、ごめん。そう言って取り出したのは、どんぐりとトチの実の腕飾りだった。
あの『見ちゃだめっ!』の正体はこれだったのか。『しないで持ち歩いて欲しい』と空は言った。糸が劣化しちゃったから……と。確かにそのままでとっておきたいと思った。
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