僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

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もう一度、恋に落ちたら〖第18話〗──②

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「え? まだ食う気なん? しかも、高級なとこ?」
「勿論♪それに、一人で食べ切れないなら味見やら毒見と称してお裾分けすりゃいいのよ」
「いいのか、それ? 食べ残し押し付けてるってことになるんじゃ……」
「いいのいいの。というか、始めから味見目的で買うんだし」

 むしろ、「食べてくれますか?」って聞くと、なぜか喜ばれる気もするし。というか、事前に毒見がされた食べ物を食べるのも、ある意味では食べ残しになると思うのよねー? 王族としての安全対策を考えれば、しょうがないことかもだけどさ? 但し、衛生面は至極大事! 食器の使い回しは認めていません!

 まぁ、人によっては・・・他人の使用済み食器の方が毒物の危険性が低いと言って、わざわざ使用済み食器を使うこともあるらしいけど。ただ、それも虫歯や病気、食中毒のリスクもあるから、やっぱり完璧なリスク回避方法なんて無いのかもしれない。

「さあ、いざ行かん、美味しい物を見付けに!」
「ええっ!? 美味しい物を探しに行くんですかっ!?」
「そう。今日の目的は、美食・・! 故に、美味しい物を徹底追及・・・・するのよ!」

 宣言すると、びっくりしているグレンを余所に、護衛や侍従のおじさま達が頷き合う。どうやら、あたしの言いたいことがちゃんと伝わっているようだ。ナイス、察しの良さ。さすが、アストレイヤ様直属の人達ね!

徹底追及・・・・、な? 王室御用達のものなら、美食というのも間違っちゃいねぇ』

 ぼそりと呟く蒼。

『ふっ、品質比較も忘れちゃいけないわ』

 アストレイヤ様の正妃宮に卸されている献上された品物と、現地で王室御用達と称されている品物。運ぶ過程での劣化はある程度しょうがないことではあるけど・・・

 品質の差異があったり、全くの別物を提供をしていたと判明した時点で黒決定! しかも、その品質分の差額を、どこぞの誰かが横領していることも確実!

 げっへっへ……証拠さえ押さえりゃ、こっちのもんよ。

 王城へ卸している領地の特産品。領主が関わっていることは明白。白を切るか……もしくは、ガチで領主が関わっていない場合でも、監督責任の追及はできるというもの!

 弱みを握る為にも、是非とも不正の証拠を挙げてもらいたいものだわ。

 と、ルンルン気分で高級レストランへ向かったら――――

 見て、しまった。というか、とうとう発見っ!! 眩く輝く金髪の、神々しいとさえ思えるような美少年っ!!

「ん? どしたよ、ね……じゃなかった。レイシー?」

 ひょいとあたしを覗き込んだ蒼が、その視線の先を辿って……

「おおっ、なんかものっそい美少年がいるっ!」
「え? あ、本当に綺麗な人ですね」
「なんだよ、見とれてんのか?」

 ニヤニヤ笑う蒼を引っ掴んで、

『アーリー発見よ』

 小さく囁く。

『はあっ?』
『おそらくはまだ、十代前半。まさか、こんなところにいたとは……王都近郊を幾ら探しても見付からないワケだわ』
『いや、ちょっ、待って! アーリーって確か、サイコパス異端審問官だったよな?』

 慌てる蒼に頷く。

『ええ。そのフラグは、一応折ったと思うけど』

 ド変態外道神官を社会的に抹殺してやった件だ。ネロたんこと第三王子への暴行未遂。加えて、王族への脅迫、殺人未遂罪も現行犯で捕縛された為、国家転覆罪で死刑は確定。更にはトカゲの尻尾切りとして神殿から破門までされた。様々な意味でに加え・・・ガチで奴の人生を終わらせてやったぜ☆

 とは言え、外道野郎には他にも児童買春や人身売買容疑などの余罪あり捲りな為、その犯した罪を詳らかに、全て公にして、公開裁判を開く予定だから、死刑執行まで年単位での猶予はあるけどね。

『なんでそのサイコパスがここにいんだよっ?』
『さあ? 多分だけど、実家がこっちの方なんじゃない?』
『適当な答え! ……つか、見付けたからってどうするつもりなんだよ?』
『とりあえず、保護するつもりだけど?』
『はあっ!? サイコパス野郎をかっ?』
『ん~……一応、そうなるにはなるだけの理由があったのよ。あたしがそれを潰したけど……ほら? ゲームスタートまでの十年程の間に、物語の強制力的な作用が働かないとも限らないし。だったら、手許で経過観察してた方がいいでしょ』
『それは……そうかもしれねぇけど……』

 渋い顔で押し黙る蒼。

 どうやら、とっても不服らしい。

『……な、ねーちゃん。どこぞのお偉いさんが奴って可能性は?』
『その可能性は低いんじゃないかしら?』
『なんでだよ』
『そうね……は、むしろ権力者に人生を狂わされた方だから……というか、可能性としては彼が誰ぞに狙われている可能性の方が高いかもしれないわ。だって、あの美貌だもの! 美しさというものは、ある種の力が無いとその美貌を持つ人の周囲にとっては毒としかならないんだから! 急いで保護しなきゃ!』
『はあ? なに言ってんの?』
『あら、アンタ知らない? ある程度の文化習熟度が無いと、酒、美食、美女が権力者の象徴なのよ?』
美女・・なんだろ』
『ふっ、甘いわね! 言ったでしょ? 文化習熟度が低ければ、男女の別なんて関係無いわ。古代ローマとか、同性愛、近親相姦なんでもござれ。欲しい相手を手に入れる為なら、難癖付けて戦争だってしちゃってたんだから。むしろ、アンタの方こそ忘れてるの? ここは、【BLゲーム】の世界なのよ』
『ぐはっ!?』

 と、なぜかあたしの言葉にダメージを受ける蒼。

「ど、されましたっ? し、シェン?」

 胸を押さえたシエロたんを、慌てて覗き込むグレン。

「い、いや……なんでもねぇ……」
「ね……レ、イシー? シェンになにを言ったんですか?」
「お互い、誘拐には気を付けようね、って言ったの。ほら? あのお兄ちゃん、とっても綺麗でしょ?」
「そう、でしたか。確かに、そうですね。俺も気を引き締めます」
「あの、レイシーお嬢様」
「なぁに?」

 あたしと蒼のひそひそを見守っていた侍女が、

「あの子が気になることを言っているのですが……」

 と、例の……お忍び旅行の護衛争奪戦に参加していた戦闘侍女が言っていたと、気になることを教えてくれた。なにやら、町にカモフラージュしながら点在している誰ぞの護衛には、隣国の言葉訛りがあるらしい。

「ふむ……これって、もしかしてビンゴだったりするのかしら?」

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