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大切な友達〖第5話〗──②
しおりを挟むパチッと痛いところに桂馬を打たれ、思わず『出されたものには手をつけずにおこう』と思っていた蜂蜜生姜湯に手を伸ばす。甘くて柔らかな優しい味だった。蜂蜜なんて、この子には高価な物なのに──。
少しでも、ここにいて欲しい。だから『帰らないで』と、空は言った。必死で寂しさを訴える瞳を見つけられず、『穢れた巫女の子』と頭ごなしに決めつけ、意地の悪い好奇心だけで覗き見するだけだった蒼の気持ちなんて、空には解っていた。
それでも、空は蒼に居て欲しかった。そのくらい、空は寂しかった。
空は幼いときに母親が亡くなって、人と会うと言えば、蒼の父が野菜を届けるくらいで、友達もいなかった。ずっと独りだった。蒼の父は外に出たら昨日のような目に遭うと解っていたから『外には出るな』と言った。
外に行けば虐げられた。暴力も、悪口も。今頃になって、蒼はやっと気づいた。空はあまりに、孤独で切ないのだ。これ以上もないくらいに。それに自分は、話からすると空の待ち望んだ昔の友達に似ているらしかった。見るのがつらいのは仕方ない。
蒼がじっと空の瞳を見つめると、空は首をかしげ照れ臭そうに笑う。首をかしげるのは癖のようだ。可愛らしい、と思う。
「美味しい……ですか?僕の家、寒いから冷めちゃったかもしれないけど、でも、美味しいはずです。そ……蒼さん、疲れてるみたいだったから、蜂蜜いっぱい入れたから………」
段々自信なさげに語尾が小さくなっていく。そんなに自分は怖い顔をしているのだろうか。
「美味しいよ。ありがとうな、空。でも、ここに飛車で、詰み。俺の勝ち」
蒼の大人げない言葉に空は笑った。嬉しそうに、綺麗に。蒼も自然と笑みがこぼれた。この家に来て初めて笑った。
「囲碁なら負けなしなんだけどなぁ。……親父だけには負けるけど。家の家系は将棋が弱いんだよ。悔しいな。空の言うとおり指してれば負けなかったんだけどな。………いっぺん完璧なこいつをギャフンって言わせたい!」
皆で笑う。そんな中、空が言った。
「……蒼さん、友達になって下さい。僕を忘れたりしないで……お願いします」
「いいよ。俺は空の友達だよ」
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