109 / 115
空の思い〖第56話〗──①
しおりを挟む結婚式を終えてすぐの事。
アーデルハイドは新たな事業を始めることにした。
「新しい船を作ります!」
「なんだ?漁船か?」
「違います。漁船は欲しいけど」
「欲しいんだな」
現在、島で取れる魚は島の周りで取れる魚が多かった。
もっと船を作って沢山の魚を効率よく採りたい所だが、一番の目的は違う。
「私達はこれまで領地拡大に貢献してきました」
「まぁ…」
「でも、まだ足りません!島の住民が食べていくだけの食料を確保していても…生活の質を向上する為に必要なものは沢山あります!」
力説をするアーデルハイドに頷く。
確かに食料は十分あるが、平和ならまだいいが、万一の事がある。
「物資を届ける船が一日二回とは心もたないし、親方達が船を増やしてくれてますが…やっぱり大きくて頑丈な船が欲しいです」
「例えば?」
「国内だけでなく他国も渡れるような船。海賊船にも負けないような装備付きで荷物と宿泊付きが望ましいですね」
前世の知識もフル活用して貿易をして、船による輸入も考えようと思った。
「だが、国産に拘っていただろ?」
「ええ、肉魚を長期保存する方法はあります。問題は果物に野菜です」
果物や野菜を輸入する時は決まって消毒液をかけてばい菌を消毒しなくてはならない。
菌が国から国へと移る可能性があるからだ。
「私は果物に薬品は使いたくありません!でも、輸入するには必要です」
「そればら、どうするんだ?魔石で凍結させるか?」
「そんなバンバン使う程ありません。魔石を買うお金があるなら、他に使います」
魔石は貴重で、値段も高い。
野菜を魔石で凍結するだけの量を手に入れるにはどれだけ費用が必要になるか。
「島では診療所すらないわ。万一の時の事を考えれば死活問題よ」
「ああ…」
「後、文字の読み書きできる人も少ない。特に女性」
何処の国でも同じで、特に辺境地に住む女性は幼少期から家の手伝いをして嫁に行けば家事と育児に農業の手伝いをして読み書きを学ぶこともない。
「女性の地位が低いのは、環境もあると思うの。本来なら男性よりも女性の方が柔軟で臨機応変に対応できるわ」
「確かに…」
男は仕事だけしているが女は育児に家事に、夫の世話までしている。
フレディーは男尊女卑の考えは全くない。
ケニスワールが、かかあ天下だったのもあるが、女性だからと言って下に見たりしなかった。
「この島はまだいいわ。でも、他所は違う。フレディーのように、内助の功をしてくれる男性はあまりいないの」
「ナイジョ?俺は男だぞ」
「違うわ、俗語よ。身内を陰で支えてくれる素敵な事よ。大黒柱を支える重要な役目を持つ人よ」
簡単に説明すると、理解するフレディーは何時も察しが良かった。
しかし、本当にその役目をできているのかと思う時があるのだが。
「私がここまでトントン拍子で上手くいっているのはフレディーのおかげよ」
「え?」
「私が今、すっごく幸せなのはフレディーのおかげ」
時折自信がないフレディーだったが、そん不安はすぐに吹き飛ばされた。
「そっ…そうか。俺はナイジョノコウができているんだな」
「ええ、貴方は誰よりも内助の功を果たしているわ。でも、そんな男性は稀なのよね」
貴族時代を思い出すと余計に思う。
妻を道具にしか思ってない男は多く、元両親は恋愛結婚であるが、互いに助け合って支えあって生きているのかと聞かれればそうではない。
今は侯爵家の恩恵と、ランフォード家の優秀な使用人のおかげでなんとかなっているだけだ。
もし彼らが解雇されたらどうなるか。
不幸になった時こそ、夫婦の絆が試されることになる。
とは言え、アーデルハイドにとって既に他人事だった。
祖国でどうなろうとも知った事ではない。
既に切り捨てていた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。


【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる