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幸せになるための二人の儀式〖第53話〗
しおりを挟む自分の離れの棟に足を踏み入れ、部屋の襖を開ける。
「……ただいま」
「お帰りなさい、そうにいちゃん。爺やさんがお布団をのべてくれたよ。僕は白菊の花を刺繍してた。綺麗でしょ。出来上がったら、そうにいちゃんにあげるね。本当は狗の背守りの、刺繍がしたかったな……」
………お母さんに、なりたかったな。小さな声で空は言った。
「もし、親になったとしたら僕はいい親になれたかな。たくさんたくさん、色んなものをあげたいけど、その子が欲しいものと、自分があげたいものが同じとは限らない。手探りなんだろうね。あ、これ寝衣の裾、繕っといたよ。まだまだ着れるよ」
自然と顔が綻ぶ。胸にあった切なさが消えていく。ああ。ここが自分の家なんだなと、思う。そして、空の力だと。温かい気持ちになれる。目の前に座る。上手く、空の顔が見れない。
「ありがとう、空」
「ん?何が?」
「その……そうにいちゃんを好きになってくれて、ありがとうな」
「どうしたの?そうにいちゃん。悲しいの?切ないの?ぎゅっとしてあげるよ」
崩れるように、空の懐に身を預けると、空は、蒼の髪をやさしく撫でた。
「少しは安心する?」
頷き、暫くそうして貰っていた。
「小さい頃、良く同じことをしてもらったね。今もしてもらってるけど。だいぶ僕も大きくなったよ。そうにいちゃん、僕にも甘えて?僕はしてもらうばっかり。だからせめてそうにいちゃんがここに帰ってくるときは少しでも癒されるといいなって。お香も、焚いてみたんだ。爺やさんが、そうにいちゃんは白檀が好きって言ってたから」
机の上の香炉から、深みのある、良い香りがする。「ありがとう」と小さく言った。
「どういたしまして。なんて………」
空は、急に恥ずかしくなって目を泳がせた。蒼は顔をあげる。空の大きな瞳にぶつかる。
「空を、あいしてるよ。ずっと、あいしてるよ」
中性的な空の薄い胸に顔を埋める。両手を、臆病に背に添える。温かい。空からは『優しさ』の匂いがする。
暫くし向かい合って、見つめ合う。指輪を外し、お互いの指輪を交換して持った。
「空、君を生涯愛することを、この指輪に誓う」
「蒼さま、貴方を生涯愛することを、この指輪に誓います」
指輪をはめ合い、触れるだけの口づけをした。
「正式な指輪の交換は『外の世界』では結婚の契約、相手を幸せにする約束なんだぞと、暁の伝書鳥にあった。幸せにするよ。空、幸せになろうな」
空は真剣な表情で頷いて、指輪を翳し『この指輪は、幸せの星空なんだね』と言った。
休もうかと、蝋燭を吹き消し布団に入る。すると指輪が光り、星影は光を振り撒く。見たこともないような星空の輝きを、一つの布団で蒼は空と身体を寄せあいながら眺めた。
「すごく、きれい……」
「星影、指輪の星空の住み心地は良いか?」
星影がキラリと瞬いた。
「良かった。喜んでいるみたい」
「綺麗だよ。指輪も。いつもに増して星影、お前も。綺麗だな……さっきは、ありがとう」
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