僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
87 / 115

獅子雄家へ〖第44話〗──①

しおりを挟む


「シシィは聖女になる気があるかい?」


 夕食が済んで食後のお茶を飲みながら、お父様が唐突にとんでもない事を言いだした。


「ありません」

「だよねぇ。じゃ、王子妃になる気は?」

「ありえません」

「うん、当たり前だよね」


 ちなみに答えたのは私ではなくスピネルである。お父様もお父様だ。私に質問したのに答えたのがスピネルだというおかしな状況をスルーして話を進めないでいただきたい。


「教会と王家が?」

「ああ、うちの娘には婚約者がいると言ったんだが、教会は神託の聖女はシンボルになるべきだというし、陛下は聖女を教会にとられるくらいなら息子の嫁にと言うしで。ああ、シシィが選んだ王子を次期国王にするから好みはどっちだろうと聞いて来たな」

「そうですか。いっそ、竜の姿で教会と王宮にお邪魔してみるべきでしょうか」

「それもいいかもしれんな」


 物騒!お邪魔するって、こんにちはー、遊びましょーっていうような平和なもんじゃないでしょ?暗黒竜ごっこはあっちにしてみたら遊びにならないから!


「スピネル、私は教会にも王家にもいかないから」

「うん、分かってるよ、シシィ」

「お父様、スピネルは本当にやりかねないんだから、冗談はおよし下さいませ」


 やるよ?スピネルはオッケー出たと思って本当にやっちゃうよ?


「まぁ、シシィ。お父様がそんな事で冗談をいう訳ないじゃないの」

「……はい?」


 お母様、お父様の言葉が冗談じゃなかったら本気だという事になっちゃうんですが。

 優雅にお茶を飲みながらにっこりと笑うお母様をじっとりと見るが、気に介した様子も無い。そうですか、それがお父様の通常運転ですか。


 ああ、そういえば、うちのお父様は私が捕縛してきた誘拐犯にヤクザキックするような、武闘派だった。文官トップの宰相と言う地位にいるのに。


「……それはおいておいて。そもそも私は聖女じゃないですし。神託をゆがめたら、その方が教会も王家も問題があるんじゃないでしょうか」


 神様は”聖なる乙女”とか飾ってくれたけど、要はスピネルが暗黒竜にならなかったのは私のおかげだよ、良かったねって話だったんだろうに。なんか特別な力がある訳じゃないのに。


「うちの娘は飾っておきたいくらいに美人だからねぇ」

「必要なのは見た目だけですか」


 それは気分がよろしくない。

 確かに私は整った容姿をしているが、教会やら王家やらのお飾りにはなりたくない。


「君を知らない人間からの評価なんて気に留める価値も無いよ、シシィ」


 ムッとしたのが分かったのだろう。スピネルは優しく私に微笑んでくれた。まあね、彼のいう事が道理だ。私を知らない人から何をどう思われたって知るもんか。


「ともかく、どちらもお断りです。そもそも第一王子殿下はこの話を止めて下さると仰ってました」


 王子さまが私との結婚を望むわけも無い。前回の事があってシシィ・ファルナーゼに対して思う所はあるだろうが、レナに説教されて私と前回のシシィを同一視することは間違いだと理解したようだし。


 前回のシシィは王子さまの事をどう思ってたんだろう。魂が傷だらけだったという彼女は、マリア様がいなかったら傷だらけのままで王子妃になり、王妃になったのだろうか。

 私には想像も出来ない事だけど、それはきっと辛い生き方になったのではないだろうか。


 狭間でその傷が癒えることを願う。


 次の人生は幸せなものでありますようにと。


 そういえば、いっちゃんそうちゃんの棲家も狭間って言ってたな。狭間っていっぱいあるの?それとも、神様の言う狭間といっちゃんそうちゃんのいう狭間って同じなんだろうか?

 いっちゃん達は狭間に魂がふよふよしているとは言ってなかったけど、見えないだけかもしれない。


 いっちゃん達の狭間に行ったら、もしかしたら前回のシシィ・ファルナーゼが漂っているのかもしれないなぁ。


 ――いやいや、シシィだけならいいけど、というか会ってみたい話をしてみたいと思うけど……幽霊がいっぱいいるようなところはちょっと怖いじゃないか。見えても見えなくても。


「ともかく、私は聖女じゃないですし、婚約者がいるので王家に嫁ぐ事も出来ません」


「そうよねー。スピネルがいるものねぇ」


 そうだよ。そんな事になったらスピネルが暗黒竜になっちゃうじゃないか。


「うん、返事は分かっていたけどね。一応そういう話が来たことだけは伝えておこうと。後はお父様に任せておきなさい」

「よろしくお願いします」


 教会のお偉いさんだとか、王族の方々だとか、そういう面倒くさそうな人の相手はお父様に任せるに限る。


 それにしても神託の影響力の大きさにはビックリだ。


 私は、勇者からうっかり神様の残念っぷりを聞いているからか、今回の神託が嘘八百だと知っているからか、神託にありがたみを全く感じていない。


 こういう経験をしたら誰だってそうだろうと思うが、今後もしも神託を聞いても頭から信じることなんて出来やしないと思う。

 そう考えると、神様に振り回された勇者が気の毒になってくるが、暗黒竜と戦わずに済んで結果オーライだったと笑う勇者を思い出し、あの位に前向きな人だからこそ勇者に選ばれたのかもしれないと思った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

処理中です...