僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

文字の大きさ
上 下
76 / 115

宝珠の力〖第38話〗──①*

しおりを挟む

    空はゆっくりと目を開けた。

「そう……にいちゃん?」

「ああ。ここが何処だか解るか?」
    
 小さく頷く空は、苦い顔をして、

「また、やっちゃったんだね。皆大丈夫だった?」
    
 と訊いた。大丈夫だった旨を伝え、何で急に『神降り』──『ああ』なったのか、何となく予想はつくが訊いた。

「物凄く怒ったときとか、感情の抑えがつかないことがあったときに、勝手になるの。記憶もないの」

「そうか……」

「また、雷落ちた?」

「また?」 

「父さんと自制の訓練をしてたけど、何回か雷落としちゃうし、石は砕けるし。結局上手くいかなかったんだ。だから宝珠に力を蓄えてもらってた」

「だからか?俺に触れて『神降り』が解けたのは。俺が宝珠を持っていたから」
    
 懐から蒼は空がくれた宝珠を取り出す。きらきらと光っているのは、溢れ出た、空にも制御できない力なのだろう。

「『違う』って、そうにいちゃんのおかげって言いたいけれど、多分宝珠のせい………。実際宝珠は力を蓄えてる。昔、小さい頃父さんが宝珠を僕に持たせたのも『神降り』を防ぐためだったんだろうと思う。でも、そうにいちゃんみたいな大切なひとが止めてくれたからだって思いたいよ。そう思いたい。あのね、そうにいちゃん……」

    真剣な瞳で蒼を見つめ、横になったまま手を空は手を伸ばした。蒼はその手を掴んだ。

「沢山のひとを傷つけるようなことがあったら……僕を、殺して」
   
  空の瞳から涙が伝う。

「そうにいちゃんにしか、頼めないの」

「俺に、それを言うのか、空」
    
 あまりにもやるせなくなって、眼鏡を外し、熱くなる目元を手で隠し空から顔を背けた。

「そうにいちゃん……そうにいちゃんだけなの。僕をそうにいちゃんに全部あげる。ずっと好きだから。……あいしているから」
    
 好きだから、愛しているから『殺して欲しい』と空は言う。命さえ、あげると。
    
 振り返る。瞳を閉じたまま泣く空はあまりにも綺麗で悲しくて、蒼は空に激しく、奪うように苦しいほどの口づけをした。
    
 乱暴に空の衣服を剥いだ。まだ昼間のうちに行為に及ぶなど、という理性は空の肌に触れた瞬間何処かへ行った。涙が落ちる。泣きながら、空を抱く。空の薄い白い胸に顔を埋め、

「愛してる」
    
 と言った。

「だから二度と、俺にそんなことは言わないでくれ」
    
 俺も空に全部あげるから、そう細く言うのが精一杯だった。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【書籍化・取り下げ予定】あなたたちのことなんて知らない

gacchi
恋愛
母親と旅をしていたニナは精霊の愛し子だということが知られ、精霊教会に捕まってしまった。母親を人質にされ、この国にとどまることを国王に強要される。仕方なく侯爵家の養女ニネットとなったが、精霊の愛し子だとは知らない義母と義妹、そして婚約者の第三王子カミーユには愛人の子だと思われて嫌われていた。だが、ニネットに虐げられたと嘘をついた義妹のおかげで婚約は解消される。それでも精霊の愛し子を利用したい国王はニネットに新しい婚約者候補を用意した。そこで出会ったのは、ニネットの本当の姿が見える公爵令息ルシアンだった。書籍化予定です。取り下げになります。詳しい情報は決まり次第お知らせいたします。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

処理中です...