宿命の星〖完結〗

華周夏

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宝珠の力〖第38話〗*

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    空はゆっくりと目を開けた。

「そう……にいちゃん?」

「ああ。ここが何処だか解るか?」
    
 小さく頷く空は、苦い顔をして、

「また、やっちゃったんだね。皆大丈夫だった?」
    
 と訊いた。大丈夫だった旨を伝え、何で急に『神降り』──『ああ』なったのか、何となく予想はつくが訊いた。

「物凄く怒ったときとか、感情の抑えがつかないことがあったときに、勝手になるの。記憶もないの」

「そうか……」

「また、雷落ちた?」

「また?」 

「父さんと自制の訓練をしてたけど、何回か雷落としちゃうし、石は砕けるし。結局上手くいかなかったんだ。だから宝珠に力を蓄えてもらってた」

「だからか?俺に触れて『神降り』が解けたのは。俺が宝珠を持っていたから」
    
 懐から蒼は空がくれた宝珠を取り出す。きらきらと光っているのは、溢れ出た、空にも制御できない力なのだろう。

「『違う』って、そうにいちゃんのおかげって言いたいけれど、多分宝珠のせい………。実際宝珠は力を蓄えてる。昔、小さい頃父さんが宝珠を僕に持たせたのも『神降り』を防ぐためだったんだろうと思う。でも、そうにいちゃんみたいな大切なひとが止めてくれたからだって思いたいよ。そう思いたい。あのね、そうにいちゃん……」

    真剣な瞳で蒼を見つめ、横になったまま手を空は手を伸ばした。蒼はその手を掴んだ。

「沢山のひとを傷つけるようなことがあったら……僕を、殺して」
   
  空の瞳から涙が伝う。

「そうにいちゃんにしか、頼めないの」

「俺に、それを言うのか、空」
    
 あまりにもやるせなくなって、眼鏡を外し、熱くなる目元を手で隠し空から顔を背けた。

「そうにいちゃん……そうにいちゃんだけなの。僕をそうにいちゃんに全部あげる。ずっと好きだから。……あいしているから」
    
 好きだから、愛しているから『殺して欲しい』と空は言う。命さえ、あげると。
    
 振り返る。瞳を閉じたまま泣く空はあまりにも綺麗で悲しくて、蒼は空に激しく、奪うように苦しいほどの口づけをした。
    
 乱暴に空の衣服を剥いだ。まだ昼間のうちに行為に及ぶなど、という理性は空の肌に触れた瞬間何処かへ行った。涙が落ちる。泣きながら、空を抱く。空の薄い白い胸に顔を埋め、

「愛してる」
    
 と言った。

「だから二度と、俺にそんなことは言わないでくれ」
    
 俺も空に全部あげるから、そう細く言うのが精一杯だった。
    
 いとしい。いとしい。だから悲しい。口づけを繰り返した。甘く昔と変わらない空の味がする。陶器のような美しい肌を重ね合わせ繋いだ身体を揺さぶると、空は甘い声をだしながら長い髪を揺らす。綺麗だ。

 障子から入る間接的な明かりでつやつやと輝いている。空は透明な声で、

「そう、にいちゃん」
    
 空は呼び続けた。

「愛してる、空」
    
 整わない、獣のような呼吸で蒼は空を抱く。空は喘ぎを隠し、涙目になりながら情事特有のため息を洩らす。空は離れることが怖いかのように蒼の広い背中にしがみつき、息を乱し、涙を流す。開かせた両足が、痙攣し、細い叫びに似た声を、蒼は深い口づけで塞いだ。蒼自らも達し、シーツを汚した。

    手早く、濡らした布で汗に濡れた細く白い裸体を拭いてやる。シーツは片付けた。空は、自分でやると言ったが、蒼がそっと額に口づけると、困ったように眉を下げ、黙った。

「ありがとう、そうにいちゃん。ごめんなさい。あとね、着替えを手伝ってほしいの。それと……言いづらいけど廊下の襖の奥、爺やさんの気配がするよ。きっと困ってる」

    はっとする。そう言えば、爺に茶を頼んだ。急いで身支度を整え、空の着物も着せてやる。布団も直したところで、わざとらしく、

「爺、いるのか?」

    などと言う。爺も心得ていて『はいはい、ただ今』などと返す。

「……茶と、菓子を。すまない」

「ご用意してあります。毒味も済んでおります」

    爺は朱塗りの盆に、熱い茶と、小さい薄荷の飴と大福と持ってきた。多分爺には筒抜けだ。少しだけ、恥ずかしい。空とチラリと視線を合わせる。空は、頬を染め俯いた。空も、恥ずかしいらしい。

「ささ、お召し上がり下され」
    
 爺の何も無かったような様子が、余計にむず痒い。

「豪華だね。あ!あのスースーする飴だね?食べていい?」

「ああ。薄荷の飴だ。爺も好きなものを」
    
 声が上ずるのを、爺は知らないふりをして大福を選ぶ。

「では、この一番大きな大福を。ふむ。美味しいですぞ。餡はやはり、つぶあんに限りますな。それと……」

  爺が、蒼の瞳を見て言った。
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