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珠合わせの約束〖第15話〗──①
しおりを挟む蒼はじっと空の瞳を見つめて話を続けた。
「できるよ。まず、俺は空以外と結婚する気はないし、空は巫女の素養がある。術の力の素養があれば珠合わせは出来る。珠移しと同じだ。空はお母さんが巫女だから。だから待っていてくれ。そうにいちゃんを、好きでいてくれ」
「そうだね………でも、空なんて、すぐ忘れるよ。みんな空のこと置いていくんだもん。………綺麗なひとが沢山いるよ。そうにいちゃんも、きっと忘れちゃうよ………」
空を引き寄せ口づけた。空の小さな手に蒼は自分の手を重ねる。深く口づけると、空の口内が熱く、食後に食べていた蜜柑と空の味がした。息継ぎが苦しそうで、可哀想に思え、唇を離す。
自分は決して童子が好きなわけではない。空だからだ。空は、他人と触れあうことが無かったせいで、何処か幼さが残るが、優しい子だ。だが論理思考は充分自分と同じくらいだ。並外れた知識がそうさせるのかは解らないが。
「そうにいちゃん……今のは………?」
「………珠合わせの予約だ。この一週間は雨が降る。晴れたら今年最後の紅葉狩りだな。一緒に行こう」
「そうだね。幸せな時間って、何でこんなに早いんだろ」
そう、空は微笑んでいたはずなのに、あまりにも悲しく見えたのは何故だろう。今日も空を抱きしめて眠る。空が逃げないように、何処へも行かないように。……消えてしまわないように。蒼が思うのはそれだけだった。
******
笑う君は何処か寂しそうで、消えてしまいそうだと思う。幼い初恋だと解っている。
だから誓う。必ず君を見つける。必ず迎えに行く。失われた月日と共に君を迎えに行くから。
******
紅葉を見に行くと、家のものに弁当を作らせ、自分しか知らない絶景を見に行った。変わりゆく季節。この木々も眠りにつくのか。そう考えていると、空は両手をあげて青空と色づいた木々の枝葉を仰ぎ、
「山が赤いね。恥ずかしいのかな?」
振り向き微笑みながら蒼を見る。ああ。綺麗だ。改めて思う。風がおこり、枯れ葉が舞った。空は笑う。消えてしまいそうなくらい、綺麗で、怖い。蒼は力の限り空を抱きしめる。
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