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蒼く光る蝶々の羽根の色〖第14話〗──①
しおりを挟むそれから毎日が明るくなった。飽きる暇などない。晴れの日はいつも青い蜜柑と薄荷の飴を二つ持ち、色んな場所へ行った。
雨の日は二人で本を読んだ。空は秀才と称される蒼をも舌を巻く賢い子供だった。知らないことはないというほど。でも、全く嫌な感じがしない。鼻につくようなことなど一つも無かった。
どんな反応を見せるかと試しに、夜、部屋で、空に耳と尾を見せると、空は驚きながらも嬉しそうに、
「触っていいの?」
と訊いた。頷くと優しく空は尻尾を撫でて、
「温かいね。ふわふわ」
と頬擦りした。身体がむずむずしたが、空が喜んでいるからそのままにした。
「黒い耳と尾は嫌じゃないか?家の者は皆、白だ」
「黒は何色にも染まらない色。素敵な色。空は好きだよ。宵闇の色。あ、蝋燭の灯りで蒼く光った!綺麗!海辺の蒼い蝶々みたい!」
「この蒼い色が、そうにいちゃんの名前の由来なんだ」
そうか、好きか、綺麗か………。蒼は泣きそうになった。一番欲しい言葉を、一番欲しいひとに貰った。
その日から空を背におぶり、耳と尾を出し山を駆け回った。全速力で走ると、空は「風になったみたい」とはしゃいで首筋に腕を絡ませた。そこだけ熱を持ったように熱くなる。
トチの実やドングリを拾いたいと言うので裏山へ行った。丸くて可愛い形をしているものを空は好んだ。空の目で見る世界は優しく、きれいだ。だが、ひとは怖いものらしく、怯える。その夜、慣れない様子で錐を使って机の灯りの下で何かを作っていた。
覗こうとすると、
『見ちゃだめっ!』
と言い、隠した。
『できたら、そうにいちゃんにあげるから、待ってて』
ふふっと、上目遣いで笑う仕草。いとしい、いとしい、小さなもの。大切に守るべきもの。そう解ってはいる。けれど、汚してしまいたい。真っ白い雪原に自分だけの足跡をつけたい。不意によぎった考えを振り払うように、食後の林檎を食べながら空の目を見ずに話しかけた。
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