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かけがえのないもの〖第13話〗──①
しおりを挟む「そうにいちゃん、お顔が真っ赤だよ?足に水をかけたらいいよ」
「空が出たら行く。もう少しゆっくりしたいんだ」
「解った……あのね、そうにいちゃん」
「何だい?」
「綺麗にしてくれてありがとう。誰も触ってもくれなかった。あと、蜜柑も美味しかった。本では読んだけど初めて食べたよ。……そうにいちゃん大好き。ずっと好きだよ」
ふふふっと照れ臭そうに笑いながら遠ざかる足音。湯から出て、足の間のみっともなく反応したものを洗い場で手早く慰める。
「………クッ」
乱れる息と、手についた白い穢れ。空には知られたくない。こんな邪な感情で空を見ていたと知られたくない。これは何なんだ?恋、なのか?恋より速く来た欲情。
空には、絶対に知られたくない。軽蔑されたくない、こんな自分が穢く思えて自己嫌悪になる。そして芽生えた初めての感情。『嫌われたくない』………裏を返せば『好きだ』ということか。
食事のあと部屋に布団をのべてもらい、寝ようと次の間の襖を開けたら一つ布団に枕が二つ。閨を共にする男女ではないのに。蒼は、ため息をつき手を二回打った。
「そうにいちゃんと一緒に寝れるの?嬉しいな。独りは寒いから」
その言葉を聞き、駆けつけた女中に言いかけた言葉を飲み込み「何か甘いものと茶を」とだけ言った。すぐに小さな金平糖くらいの薄荷の飴と、熱い茶が運ばれる。
「面白いから、食べてごらん」
「甘いけど、スースーするよ。不思議。噛んでもいいの?」
空の口からカリッと音がする。
「お茶を飲んでごらん」
空は目を白黒させていた。茶を飲み終わると、
「すごい、すごいね!」
と空は満面の笑みで蒼に飛びついた。
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