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空の素顔〖第12話〗──①
しおりを挟む「俺は蒼。君の名前は?」
この子供の歩調に合わせてゆっくり歩く。
「………空」
「お母さんは?」
「三週間くらい前に、死んじゃった」
「そうか……。これ、あげるよ。お腹が鳴ってる」
そう言いまだ青い蜜柑をあげた。空というその子供は、青い蜜柑に、伸びて汚れた爪を立て『いい匂い』と言い、丁寧に食べている。
蒼は潔癖ではないが、拾ったことを後悔するくらいの汚さ、腐臭にも似た匂い。そして、感じられる『哀しみ』の気。隣に居るだけで心地悪い疲れの『澱』が身体に残る。多分親は術関係の職種だろうと思えた。術の才能は遺伝する。
「お父さんは?」
「消えちゃった。お仕事みたい。家にはあんまり来ない。お仕事が忙しいんだって」
術師の不貞の間の私生児か………。それにしても臭う。
「家には風呂はないのか?」
「お母さんが昔は沸かしてくれたけど、空じゃ古くてお湯の沸かし方が解らないの。ごめん、おにいちゃん。空、臭いよね」
ふふっと悲しい声で困ったように笑う。これがこの空と言う子の身につけた生きる上での処世術か。悲しい、笑い。
年を訊いたら『わからない』と言った。変に大人びた所がある、逆に幼い部分も。不思議であまりにも憐れな子供。泥と長い髪がグシャグシャに絡み、顔が解らない。
早く見てみたい。祝言で初めて花嫁を見る男の気持ちはこんな感じなんだろうか。残酷な、気分になった。
屋敷に帰り、湯を用意させている間、服を選んだ。自分の幼い頃着ていた服。空は背があまり大きくない。それから、空と一緒に風呂へ入った。
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