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空の孤独 と疼く記憶〖第8話〗──①
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………朝起きてみると、空の母親はもう、息がなかった。息を引き取る瞬間も一緒にいられなかった。
また、『死』というものに接したことがなく、また、全ての時間を母と一緒にずっと狭い家の中で過ごしてきた空には『死』が良く解らなかった。その意味も概念もまだ良く理解できなかった十歳の空は、なす術もなく、ただ母親が目覚めるのを待った。段々容貌が変わり、腐臭が漂う母親を必死に『看病』した。飲まない水を飲ませ、懸命に語りかけた。
家にたまに来る綺麗な着物を着た長い髪のおじさんが二週間くらい経った後くらいに来た。変わり果てた母親を見ると、涙を流して抱きしめた。すると、空の母親は生き返ったように綺麗になった。
母親は棺に入れられ、眼鏡のもう一人のおじさんと長い髪のおじさんが空の母親を花でいっぱいにして、家の裏に埋めた。そして、長い髪のおじさんが流した涙が宝珠になった。おじさんは懐から二つの宝珠を出した。『空が生まれた喜びが一つ、お前の母親を失った悲しみが一つだ。肌身離さず持っていなさい』と言うと、長い髪のおじさんは、空を抱きしめると消えてしまった………
────────────
「お母さんを思い出すと勝手に涙が出てくるの。何でかな……」
そう空は困ったように涙声で笑い、片手で顔を隠した。指の間からとめどなく涙が伝う。もう息がない母親との二週間。段々痛んでいく遺体。それをまだはっきりと『死』の概念がない十歳の子供が『看病』し、その様をずっと見ていた。
どんなにつらかったか。孤独だったか。悲しかったか。叶うなら十歳の空を抱きしめて、一緒に泣きたかった。
そして、年の割に空の精神が幼い理由が解った。空の人生の中で関わったのは『母親』だけだ。空の世界はあの狭い家の中と、夥しい本の世界。
………朝起きてみると、空の母親はもう、息がなかった。息を引き取る瞬間も一緒にいられなかった。
また、『死』というものに接したことがなく、また、全ての時間を母と一緒にずっと狭い家の中で過ごしてきた空には『死』が良く解らなかった。その意味も概念もまだ良く理解できなかった十歳の空は、なす術もなく、ただ母親が目覚めるのを待った。段々容貌が変わり、腐臭が漂う母親を必死に『看病』した。飲まない水を飲ませ、懸命に語りかけた。
家にたまに来る綺麗な着物を着た長い髪のおじさんが二週間くらい経った後くらいに来た。変わり果てた母親を見ると、涙を流して抱きしめた。すると、空の母親は生き返ったように綺麗になった。
母親は棺に入れられ、眼鏡のもう一人のおじさんと長い髪のおじさんが空の母親を花でいっぱいにして、家の裏に埋めた。そして、長い髪のおじさんが流した涙が宝珠になった。おじさんは懐から二つの宝珠を出した。『空が生まれた喜びが一つ、お前の母親を失った悲しみが一つだ。肌身離さず持っていなさい』と言うと、長い髪のおじさんは、空を抱きしめると消えてしまった………
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「お母さんを思い出すと勝手に涙が出てくるの。何でかな……」
そう空は困ったように涙声で笑い、片手で顔を隠した。指の間からとめどなく涙が伝う。もう息がない母親との二週間。段々痛んでいく遺体。それをまだはっきりと『死』の概念がない十歳の子供が『看病』し、その様をずっと見ていた。
どんなにつらかったか。孤独だったか。悲しかったか。叶うなら十歳の空を抱きしめて、一緒に泣きたかった。
そして、年の割に空の精神が幼い理由が解った。空の人生の中で関わったのは『母親』だけだ。空の世界はあの狭い家の中と、夥しい本の世界。
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