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不可解な気持ち〖第6話〗──①
しおりを挟む爺や、一族に知られたら問題になることだとは解っている。けれど、先に言葉が口をついて出た。暁が、
「俺が『あきにいちゃん』なら、蒼は『そうにいちゃん』か?」
と言うと嬉しそうに、照れ臭そうに空は頷く。小さく「そうにいちゃん………」と言った声が、千切れるように胸に刺さるほど、あまりにも哀しく切なかった。
あのあと、空が、暁がお土産持ってきた林檎を剥いてくれた。蒼と暁には大きめに剥いてくれた。蜜柑は皆で食べた。仲良くなれた気がしたはずなのに、やはり空が自分を見る目は何処か悲しげで、何かあるような感じがした。
「残った林檎はお砂糖で煮てお菓子にするね。あきにいちゃんも、そうにいちゃんも、食べに来て」
「ああ。食べに来るよ。お前が呼んだら、あきにいちゃんは……何処にいても飛んで行くよ」
そう言い、暁は空を抱きしめ頬にチュッと口づけた。空も恥ずかしそうに笑う。
「な、何してんだ!」
次に、ついて出そうになった言葉に蒼は愕然とした。この子供はやはり『忌み子』だ。関わるとおかしくなる。蒼は何よりの理解者の親友の暁に自分は言おうとした。
『俺の空に触るな!』
……昔から知っている友達は暁しかいない。まず友達と呼べるのは暁だけだ。他の者は下の者。従わせるものだ。空なんて今日、初めて会って少しだけ遊んだだけの子だ。しかも格別に仲が良いというわけじゃない。なのに何故こんなにも心が乱れるのか。ともあれ、その理由は暁じゃない、空だ。空が暁にばかりなつくから腹が立っていた。苛々していた。
これは何だ?嫉妬?独占欲?
いや、こんな子供相手に一目惚れはない。何処かで、会った?いや、そんな記憶はない。自分が解らない。ただ、この子といると不可解に気持ちが波立つ。
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