僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

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大切な友達〖第5話〗──①

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「蜂蜜生姜湯です。温まりますから」

「何だ、空。他人行儀な話し方して。どうした?」

「あ、あきにいちゃんのお友達の人が、昔のた、大切な友達に似ていたんです。でも……僕のこと、忘れてる。約束したのに……ごめんなさい……き、急に泣いたりして、ごめんなさい」

「よしよし、泣きたいときは泣くのが薬だ。空、ほら、こっち来い」

    人違いされて、おどおど顔色を窺われて。蒼は苛々していた。いい年にもなって暁に炬燵で慰められながら、メソメソ泣く姿も見たくない。泣きやんで暁とベタベタくっつきながらじゃれあう姿も。
『いつまで子供じみたことをしている気だ!』
と腹が立ってくる。だが冷静になる。どうして自分は、よりによってこんなことに腹を立てているのか。

    たかが子供の一喜一憂する姿など、心の中は気にも止めずに、いつもなら、綺麗で、そして薄っぺらい言葉で適当に慰める。

 顔が好みならそのまま口説く。女でも男でも遊びはした。遊ぶところはあるし、狛井の嫡男はいい餌だ。だが、身体の関係はあっても心まで奪われた相手はいないと、蒼はふと思った。そして、何故だろう。ここに来てから、この空という子に会ってから、蒼はずっと苛々している。

    蒼と、暁と空との組み合わせで将棋をやった。空の蒼だけあまりにも馬鹿丁寧な言葉遣いで接して、ずっと悲しい視線で見つめるのが、蒼には気に食わなかった。暁にはあんなに無邪気に笑い『あきにいちゃん』とあだ名までつけているのに。何故か蒼だけを頑なに拒む。苛々が頂点に達しそうなとき蒼が空に腹が立つ理由が解った。『嫉妬』だ。

    空に拒まれたくらいで腹を立てている事実。蒼は絶句した。こんな子供に。しかも暁と比べて。蒼はいつも通りの顔をして飼ったことがない感情をもて余す。
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