僕の宿命の人は黒耳のもふもふ尻尾の狛犬でした!【完結】

カシューナッツ

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狛井家の嫡男〖第2話〗──①

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 到底一人では無理だと、爺に救援を頼んで蒼と爺でへとへとになりながら、参拝客を捌いた。一段落ついたときには、もう昼はとうに回っていた。不快指数が高まり、眼鏡をあげる癖がかなり出ていたらしい。レンズ部分が指紋だらけだ。

    暫く社務所には『休憩中』の張り紙を出し、隣接した休憩所の窓に蒼はカーテンを引き、扉に鍵をかけた。普段、参拝客が多くない、大きいがひっそりとした神社。こんなに忙しくなるなんて滅多に無い。

    食事を取ると緊張が解け、眠くなった。眠気覚ましに、薄荷の飴を食べる。大きなため息をついたら姿見の大きな鏡にピョコッと耳が出る様が映った。ファサッと音を立てふさふさの尾もだ。爺の言うように、ふとしたことで耳と尾が出てしまう癖は子供の頃と変わらないかもしれない。

    他の狗と変わらない。形だけは。ただ、この蒼の耳と尾は忌み嫌われた。真っ黒な毛の色。普通はみな白系統だ。好きでこんな色に生まれたわけではないのに。なのに、皆から疎んじられた。『穢い耳と尾をしまえ』と何回も言われた。

幼い頃から尾を踏まれるのは当たり前だった。近づいてくるのは下心を隠して近づいてくる大人達。自分の利用価値は、『狛井家の嫡男』それだけだ。蒼は、段々他人を斜めからみるようになった。狛井家の当主の父は厳しく、甘えることを許さなかった。

母親は小さい頃亡くなった。覚えてもいない。誰かに優しく名前を呼んで欲しかった。優しく接してくれたのはごく限りあるひとたちだけだった。

    自分のように若くして簡単に人のかたち─気を抜くと蒼は耳と尾が出てしまうが─それをとれるのは、蒼の家、『狛井家』と親友の暁の『獅子尾家』の者くらいだ。山神さまを守る『狛犬』と『唐獅子』それの一族が両家。他の生き物は長く生きないと人のかたちをとるのは中々難しい。

「神官か巫女がいれば全て任せておけるのに」

 この村では陽が落ちると外界との門は閉ざされる。外の人間は追い払う。秘密を見たものは暗示をかけ、追い出す。ここは、ほとんど人外のもので出来ている。

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