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〖第65話〗鷹・瀬川side②
しおりを挟む「お前、本当に良いのか?まあ、まずお袋と親父に相談してからだけど………本当に後悔しないか?」
「もう、父さんと母さんに迷惑をかけたくないんです。学費もお金がない中、工面してくれて。
でも、全部記憶も戻ってしまって──僕は深谷の家にいたらいけない。いけないんですよ。
あと、鷹さん───芦崎の父と母は必ず、叶えてくれますよ。
だって僕のお願いですから」
涙を流しながら朱鷺は笑う。
噛みすぎた唇がいつもよりずっと赤くて、俺は涙よりも何故か唇から目を逸らせなかった。
「おでん、ご馳走してくれよ。温まったんじゃねぇか?手伝うよ」
「そうですね。あと、ひとりでも大丈夫です」
二人でおでんを食べた。
朱鷺の作ったおでんはとても美味しかった。温かくて、少しほっとした。
うどん巾着を初めて食べた。
味の染みていて、とても美味しかった。
食べ終わり、俺が食器を洗っていると
傍らに立つ朱鷺がぽつりと言った。
「あの人がキッチンにたつ姿が好きだったんです。あと、僕の髪に指を絡ませながら眠る癖も僕はとても好きだった
──もう……過去のことですけど。鷹さん、明日行きたいところがあるんですがお願いしていいですか?」
「何でも聞くから。今は少し眠れ。俺のマンションで少し休め。ここには居たくないんだろ?ん?ゴミ落ちてる」
「それ、下さい。大切なものなんです」
俺は車で朱鷺を自分の家に連れ帰り、部屋を案内する。
「俺のベッドでいいか?あの、客間、しばらく使ってないから」
「そんなに気を使わなくても大丈夫です。『前に来たお客さん』なんて、気にしませんから」
朱鷺は一生懸命笑う。
「………そうか。お前が良いならそれでいいよ。少し出かけてくる。何かあったら携帯に連絡しろ」
「あの人のところへ行くんですか?鷹さん、殴ったりしないでください……」
俺は朱鷺の頭をくしゃくしゃっと撫でて、
「解った。しないよ」
穏やかにそう言い、家を後にした。
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