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〖第51話〗朱鷺side④
しおりを挟む僕がもう気にすることではないことは解っているけれど、
部屋を汚くしてないか、
お酒ばかり飲んでないか、
ご飯をちゃんと食べているかとか色んなことが頭をよぎる。
鷹さんが、楽しそうに笑う。
「朱鷺、瀬川のこと驚かせてみるか」
と言い、僕を後ろに隠して、インターフォンを鳴らす。
「よう、久しぶりだな。上げてくれ」
「朱鷺は?一緒なんだろ」
その言葉に僕は、どきりとした。鷹さんと二人の時は僕のことをそんな口調で呼ぶのかと、初めて知った。
「まあ、待て。中入ってから」
鷹さんに隠されながら先輩の家に入る。開いたドア、通された室内。昔初めて来た時を思い出す、他人を拒絶するかのような整理整頓された綺麗な部屋。
喜んで良いはずなのに少し寂しくなった自分が嫌だった。
良く磨かれたガラスのローテーブルの上にトローチの箱が乗っていた。
先輩のバロメーター。お酒が減るとトローチかのど飴が増える。先輩と暮らしているとき、あの箱を見るだけでも嫌悪感があったけど、先輩には必要なものだからと買い物かごに入れていた。
「で、何?」
先輩はいたって不機嫌だった。会わずに帰ろうかと思うほどだった。
「こんばんは」
先輩の視線が刺さる。温かいものではなかった。
「──何で切ったの?俺、君の髪が好きだって言ったよね?」
冷やかな、少し怒りが入った声に、僕は萎縮し、話したいことも話せなくなる。
『少し自信がついたんです。多少無理があっても先輩と一緒に居ても笑われないんじゃないかと思うんですよ。僕、もう恥ずかしくないですよね。もう、モジャモジャの冴えない子供を卒業出来ましたよね?』
そう言いたかった。絞り出したのは愛想笑いと乾いた言葉だけだった。
「店員さんも似合うって……先輩、喜んでくれると思ったのにな」
僕は短くなった前髪をさわりながら一生懸命笑った。
「髪、切るなら俺が切ろうかって言ったよね?なのに君は『いい』って言った。どうやって切ったの?教わりながらでも切った?」
先輩は薄く笑いながら言う。冷たく怒っているのがはっきり解る。
先輩に切らせなかったのは怖かったからだ。髪を切るのを身体が拒否したら先輩が傷つくと思った。
「てめえ、それ以上言ったらぶん殴るぞ。何で喜んでやらねぇの?お前だって実際、今の朱鷺見て見て可愛いって思ってんだろ?こいつが外見に凄くコンプレックスあったの知ってるよな?小さい頃はこんなに髪も巻いてなかったのに、上手く自分じゃ切れなくて、こんなに伸びて………」
「何がいけないんだ?三ヶ月一緒に居た。朱鷺の顔がよく見れば人並み以上に整っているくらい知ってる。目も大きくて、鼻筋も通って。綺麗な子だよ。本当にね。俺だけ解っていれば十分。わざわざ髪を切ってまで他人に教える必要なんかないね」
鷹さんの握った右手が震えるのが見えた。
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