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〖第49話〗朱鷺side③

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「欲しいものあるなら買ってやるぞ。新しいアルバムの売り上げも中々いいし」

僕は改めて思う。

ピアニストの瀬川先輩に、
バイオリニストの鷹さん。

以前だったら、こうして親しくしてもらっているなんて想像もつかなかった。

なのに僕は、みっともない僕のままだ。先輩はまったく気にしていないけれど。

こんな僕で本当にいいのだろうか。
何処にでもいる普通の音大生で、たまたま先輩の目に留まった理由は、カウンターテナーだということ──鷹さんに似てたからということ。

先輩は『可愛いよ』と言う髪も、自分ではうまく切れなくて、どんどん伸びるばかりだ。『モップ』と呼ばれた高校生の頃を思い出す。

思わず考えこみ、僕は俯いた。そんな僕に鷹さんは、

「そんな、とんでもない値段のは困るぞ」

わざと明るい調子で声をかける。

「クリスマスプレゼントだから、自分で買いますよ」

僕は笑った。

「瀬川にやるの?」

「あと鷹さんに」

「おれ、これが欲しいな」

目の前に出されたのは恐竜の卵のような灰色の石。ご主人が笑う。

「オパールが入っているかもしれない石です。輝きがないものが入っているケースが多いんですが、稀に輝石のようなものが入ってる場合もありますよ」

「奇跡?……ああ、輝石ですね。どうやったら解るんですか?」

鷹さんは真面目な顔をして訊いた。

「割るしかありませんね」

ご主人は少し寂しそうだった。鷹さんはその石の値段を確認すると、

「三個買おうかな。朱鷺、一つ買って。プレゼント、くれるんだろ?」

「鷹さん、三つのうち二つは割るんでしょ?僕のプレゼントした石は割らないで下さい」

僕は一つ真剣に選ぶ。輝石が入ってそうなものを包装してもらい、その場で鷹さんに渡す。鷹さんが欲しがったからだ。

「ありがとな、朱鷺。さて、お前のいい人にはなにやるんだ」

「瀬川先輩は二月生まれだから、アメジストの何かいいもの」

「指輪ってわけいかねぇしな。手の商売だから」

「そうなんですよね。あ、これにします」

僕が見つけたのはペンダントトップだった。
研磨され丸く形が柔らかくなり、鋭利な輝きはなかったけれど、
小さな袋があればなかに入れて持ちあるってもらえる。

まるで考えを読んだかのようにご主人が言った。

「袋はどれになさいますか?」

僕は黒の袋にした。
選んだアメジストが心なしか明るい紫だったから袋に負けないと思った。

「チェーンもいれておきます。シルバーなのでお手入れをして下さい」

「はい」

綺麗に包装してもらい、何度もお礼を言って店をあとにする。

辺りは薄暗くなっていた。あの店だけ時間の流れに逆らっているみたいだった。

イルミネーションがキラキラしていて、ショーウインドウがみんな鏡のように僕を見る。

見ないで欲しい。
がっかりする。

せっかく買ったプレゼントも自信をなくす。
僕がしょんぼりして下を向いてると、鷹さんが背中をポンっと叩き、言った。

「朱鷺、ちょっと付き合え」

──────────

つれてこられたのは店としては小さいけれど、とても雰囲気のあるヘアサロンだった。
 
「高橋ちゃん、久しぶり。飛び込み大丈夫?」

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