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〖第23話〗瀬川side②
しおりを挟む俺は無感情に吸い終わった煙草の火を消し、もう一本の煙草に火をつける。
「失血性ショックだったけど何とか生き返ってね。それから母は俺に過去の憎んだ父親の役を全部着せて、俺の存在すら消して、今の優しくなった親父だけを見て生きてる。俺を捨てて、親父を選んだというわけだよ。その日そのお陰で俺のシャツは血だらけになった。だから俺は赤い色はまだ好きじゃないな。救急車で帰った夜中、庭の境目で鷹に会った。俺と鷹の家は、隣どうしで──雨がひどく降っていたね。俺は──ショックだったんだろうなあ。そんな中ふらふら庭を散歩してたんだから。ぼんやりと覚えているのは、鷹がトローチを俺に差し出して
『忘れればいい』
って言ったことかな。言われるままにトローチを食べていたら
『悲しいこと、つらいことはみんな消えてなくなる』
と言って笑った。綺麗な笑顔だった──鷹は俺にキスをした。彼は少しだけ困ったような顔をして
『忘れて』
と言った。それからずっと、鷹自身も、『忘れて』くれている。それからだね。鷹にこだわるようになったのは。おしまい。あまり明るい話じゃなくて、ごめんね」
「だから、それから、鷹さんだけを見て、ずっと……」
俺は、微笑んで言った。
「珈琲冷めちゃったかな。つくりなおしてあげるよ」
俺はキッチンに立とうとし煙草を消した。その右手首を捕まれ、朱鷺は俺を抱き寄せた。
朱鷺は腕を俺に絡め、自然と俺の顔は朱鷺の胸におさまる。
洗濯物の陽の匂いと、微かに甘い朱鷺の匂いが混じった心地いい場所だった。抱きしめられながら目を閉じた。朱鷺の身体が震える。泣いているようだった。
「どうして泣くの」
「先輩が、悲しくて。先輩こそ、どうして笑うんですか。先輩も泣けばいいのに」
俺は暫く朱鷺に抱き締められたまま目を閉じていた。温かくて、安心した。
「何でだろうね。泣けないんだ。じゃあ、代わりに約束して。俺のこと──『ずっと忘れないで』いてくれる?」
「はい──」
沸々と思う──朱鷺が欲しい。純粋で優しい、この子が欲しいと強く思った。
絡まる腕から抜け出す。左手で朱鷺の頬をくるむ。親指で涙を拭い、視線を合わせる。次から次へと涙が溢れるくしゃくしゃの前髪から見え隠れする大きな目が綺麗だと思った。
俺は朱鷺に口づけた。長く奪った。淡く香るミルクと砂糖入りの珈琲の香り。きっと俺はこの匂いを味わう度に今日の朱鷺を思い出す。
朱鷺はぎゅっと目をつむり、俺の口づけを受け入れた。重ね合わせて軽く絡めた右手が震えていた。俺は何回も何回も、夢中になって朱鷺に口づけた。
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