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枯れたジキタリスの花
〖第10話〗もう、手を離さないで
しおりを挟む毎日の繰り返される、会話
『相模、あんまりこん詰めすぎないようにね。これ、珈琲。ちょっと熱いかな』
『相模、おはよう。今日は晴れだよ』
『相模。愛してる。相模だけ。他は要らない』
──────────
「先輩は、僕が『あの相模』じゃなければ好きになることはなかったんですよね、初恋だったから。あんな陰キャな可哀想な部類にカテゴライズされる僕に優しくしてあげるのは楽しかったですか?」
──ジャージ
──モップ
──お掃除の時間って感じ
こんな時に思い出される、過去の、自分を惨めにさせる言葉たち。
「相模、やめろ!」
「どうせ僕は、僕は。早川さんみたいに格好良くないです。身長だって小さいし、童顔で子供扱いです。どうせ僕はその程度です。でも、ここにくるまでの2年間は、あまりにも、つらくて、何処にも居場所がなくて、ただ、あなたが僕の生きる灯火でした。あなたの存在が僕の未来への糧でした。………あなたに気づいて欲しかった。良くがんばったねって、褒めて欲しかった。あなたに認められるためにあなたにもう一度会うために、僕はなりふり構わず勉強をしました!なのに、どうして………」
僕は情けないくらい泣いてしまっている。まるで出会って恋におちたあの頃のように。子供のようにしがみついて、背中に手をまわした。 答えなんて、どちらでも良かった。
初恋の歪んだ続きでも、
大人と言われる年でする初心者の恋と言われても。
「俺の初恋は相模だよ。手紙に書いたとおりだ」
「じゃあ、先輩──手を、手を離さないで」
僕は言った。
「もう二度と手を離さないで。もう、よそ見をしないで。お願いです。あのときのことを思い出すと、悲しくて悔しくて、つらく……って……」
沈黙が、風の音を引き立たせる。
「せん……ぱい」
「言いたいことを、言って」
肩を抱く先輩の手は少しひんやりしている。
「僕は、僕は、あなたが思っているほど綺麗な人間ではありません。傷ついたら傷つけ返します。もう、貴方の好きだった『相模』はいません。今回のことで、嫌いになっても構いません」
先輩は涙で瞳を潤ませて、僕を見つめ、 先輩は僕の肩に顔をのせた。
「嫌いになったりしないよ。どうして?」
暫くして声を震わせながら、
「どうして?どうして相模は俺が相模を嫌いになると思ったの?」
先輩はそう聞いた。その質問に僕は、一瞬、息を止めた。
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