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枯れたジキタリスの花
〖第7話〗美しい毒草
しおりを挟む『いや……最近疲れた顔してるから、心配してた。俺の残業で、明彦にばかり家事の負担をかけて、本当にすまない。来週続けて休みがとれる。何処か行かないか?』
「植物園に行きたいです。ジキタリスが、咲いている時期ですから。オレンジジュース、冷やして持っていきましょう」
『ああ、………ジキタリスか。毎年この時期だな。あの花を描いていて良かった。明彦、高校の頃、トラックを夕暮れの中独り残って走る君を見ていた。見ているだけで終わってしまうと思ってた。夕日を浴びた金色の髪が本当に綺麗だった。今も変わらない。秘密の庭のジキタリスに感謝だ』
あの花がなければ、今の光宏先輩との関係はなかった。恋を知らずにすんだ。
あの花がなければ、苦しくて、苦しくてたまらなくなった恋の痛みを覚えた心臓を抱えずにすんだ。全て美しい毒でありながら薬にもなるあの花が始まりだった。
「ええ。キツネノテブクロに」
『メロンパン、食べたい。坂の上にあるパン屋で、出かけるついでに買っていこう。あとは、そうだな……明彦の特製玉子サンドも食べたい。懐かしいな。もう、何年経つんだろうな……。明彦は料理が上手だから。つい頼ってしまって、いつも悪いと思ってる。でも、一緒に作りたいな。料理する明彦を見ているのが好きなんだ』
電話の向こうで光宏さんが悪戯っぽく笑う。電話を切り、窓の外、あの霧の街に想いを馳せる。
『リュート、君のお陰だよ』
──────────
あの後、
「抱いて欲しい」
という僕にリュートは苦笑いしていった。
『美しき魔女キルケーが、古代ギリシャの英雄オデッセウスを誘惑するみたいだ』
まあ俺はオデッセウスと違って英雄じゃないけど。そう言い笑って、
『キスまで。じゃなきゃ、俺も君を待ってしまう。いつか会えるかも知れないってね。必然でもつらいのに、偶然を待つ苦しみは君が一番解っているはずだろ?』
甘いキスを重ねて、
『お休み、アキ。眠って。眠ったら、元通りだ』
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