ジキタリスの花

華周夏

文字の大きさ
上 下
22 / 28
枯れたジキタリスの花

〖第6話〗あなたをずっと追いかけた

しおりを挟む

 先輩の指は白くて繊細だった。まだ、覚えている。さらさらした前髪。少し厚めのレンズの眼鏡。耳に心地いい優しい声。僕の気持ちを読んだかのようにリュートは苦しくなるくらい僕を抱きしめた。 

『俺を先輩だと思っていい。1分1ポンドな。日本語で好きなこと、言えばいい』

 リュートは、ながったらしく片想いを拗らせた僕の背中を撫でた。 

『待っているよ。ずっと君を待ってる』そう言い泣いていた先輩の姿が浮かぶ。罵詈雑言を並び立てるつもりだった。

 だって先輩は嘘つきだ。
 先輩は、僕を捨てた。 
 じゃああなたに捨てられた僕は?
 あなたを追いかけ続けた僕は? 
 もうとうに諦めているんです。 
 
 それでも思いをただの思い出にしたくない。この想いを、ゴミ箱に捨てるみたいに消したくない。僕が初めて『希望』という思いを初めて抱かせてくれた人だから。 

 ヒューヒュー呼吸を苦しくしながら、あの人を罵ろうと思ったのに、浮かぶのは穏やかに『相模』と呼ぶ声や、白い指で髪を撫でる感触。抱きしめられた時に香った爽やかに甘い香水のような匂い。

 「約束したのに。待ってるって、言ってくれたのに」
 
「好きだったのに、好きだったのに、あなたが居たから医学部を目指した。医者になった」
 
 恋をしていたんです。
 ずっと、あなたを追いかけた。 

──────────

 診察室の後ろのカーテンが開く。看護師が、忙しげに伝言を残す。 

「相模先生。一番の診察室の佐伯先生からお電話です」 

「あ、ありがとう」 

 僕は手元の内線に切り替えた。

 「もしもし光宏さん、急用ですか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ダブルスの相棒がまるで漫画の褐色キャラ

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
ソフトテニス部でダブルスを組む薬師寺くんは、漫画やアニメに出てきそうな褐色イケメン。 顧問は「パートナーは夫婦。まず仲良くなれ」と言うけど、夫婦みたいな事をすればいいの?

地味男はイケメン元総長

緋村燐
青春
高校一年になったばかりの灯里は、メイクオタクである事を秘密にしながら地味子として過ごしていた。 GW前に、校外学習の班の親交を深めようという事で遊園地に行くことになった灯里達。 お化け屋敷に地味男の陸斗と入るとハプニングが! 「なぁ、オレの秘密知っちゃった?」 「誰にも言わないからっ! だから代わりに……」 ヒミツの関係はじめよう? *野いちごに掲載しているものを改稿した作品です。 野いちご様 ベリーズカフェ様 エブリスタ様 カクヨム様 にも掲載しています。

Please,Call My Name

叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。 何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。 しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。 大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。 眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

処理中です...