ジキタリスの花

カシューナッツ

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枯れたジキタリスの花

〖第3話〗留学

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 アパートメントの下の階のリュートが、風邪をひいて寝込んでも、全く医者に行く様子もない僕を見かねてスープを持ってきてくれた。 

『アキ、スープだよ。食べて。早く元気になって』
 
『ありがとう。美味しそうだね。いい匂い。クラムチャウダー?』
 
『うん。ベッド横になってて。クッション背中入れるよ』 

 一気に呼吸が楽になる。 

『ありがとう………僕は一体何のために医者になろうと思ったのかな。一時的な、ただの恋愛感情?馬鹿みたいだ。挨拶も無視されて、気づいてもくれない人の為に』

リュートは僕の髪の毛をワシャワシャと撫で、 

『アキは好きな人に、褒めてもらいたかったんでしょ?頑張った自分を認めてもらいたかったんだよ。酔っぱらう度に誰かに絡んでるよ。「どうして待っていてくれなかったんですか」とか「褒めてあげるっていったじゃないですか」とか「お医者さんになったじゃないですか」って誰彼構わずしがみついて泣いてるよ。それが答えだよ』

 リュートは続ける。

『今はアキが一緒の飲み会は、誰にしがみついて泣くか、賭けになってる。どんな理由でもいいんじゃない?まあ俺は、なったきっかけはどうであれ、一応さ、医療従事者は尊い仕事じゃないかなって思うよ』 

 あースープ冷めてる!ぬるいけど我慢して。リュートは僕がお皿でスープを食べるのが苦手なことを知っているので、小さめの鍋からカップによそってくれたのをくれる。 

『あったかい』
 
『そう?良かった。まともに俺、料理しないけど、これだけは好きで作りたくて調べたんだよ。どうかな?』

『美味しいよ……ありがとう。あったかいな』

 リュートを見て微笑むと、リュートは、

『わ~こっち見んな。アキ、熱で目が潤んでフェロモンだだ漏れだよ。あのさ、訊いていいか解んないけど『お誘い』は断らないってホント?』

お誘い、か。僕はこころの中で苦笑する。
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