ジキタリスの花

カシューナッツ

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ジキタリスの花

〖第3話〗もう、ここにはいたくない

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そしてこの人にとって僕は、義父から買い与えられるブランド品や高価な宝石以下だと言うことを。

ねえ、母さん。僕はそのプラチナのネックレス以下だったの?僕が死にたいと思うほど悩んだことは、そのダイヤの指輪以下だったんだね。

僕はその時、初めて他人への失望を覚えた。期待してはいけない。後で自分が傷つくだけだ。と。

その後、母はことあるごとに僕に言った。

「ねぇ、あっちゃん、もとの暮らしに戻りたい?臭いアパートは嫌よねぇ?」

へばりつくような言葉で染み付いてこようとする。新しい義父は言った。

「お前みたいな馬鹿な奴はこの家に居る資格はない。私は弁護士なんだ。律雄も里美も優秀なのに。全く。学のない父親に似たか。お前なんか出ていけ!」

母はそこで僕の、酷い癖毛の髪を──大好きだった父さんと同じ髪を無理やり掴み、頭を下げさせ、母さんは泣く。

「ほら、明彦、謝りなさい。もっと勉強します。この家に置いて下さいって」

僕に家族なんかいない。僕はただの居候だ。叶うなら出ていきたかった。ジャージが欲しいが此処にはない。自分の部屋という非常階段はあるけれど。でも、この非常階段は誰でも簡単にやってくる。

「おい、出来損ない。金くれよ」と。
 
──────────

逃げなければ、駄目になる。自分が壊死していく音が聴こえるようだった。

高校は陸上の短距離の選手のスカウトで偏差値も物凄く高い名門校へ入学した。僕は勉強が苦手だったけれど、全国大会に3年間連続入賞の実績は大きいと見てくれそれでもいいということだった。

『文武両道』

それがその学校のスローガンだった。学校説明会で見た、体育館に掲げられた紺色の横断幕が胸をチクリと痛ませた。

毎日始発に近い列車に揺られ朝練に通った。家に一秒も居たくなかった。朝ご飯はメロンパンとオレンジジュース。

走るのは楽しかった。でも、いくらタイムを縮めても、部活での自分の扱いは小学生、中学生と同じだった。

身長が小さかったからかもしれない。それと、染み付いた劣等感。断れない、嫌だと言えない植えつけられた性格。

変わりたかった、変われなかった。その高校で、出会ったのが佐伯先輩だった。
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