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番外編
【番外編】啓介の夏休み④
しおりを挟む「こんばんは。啓介を迎えに来たの?」
「このバカっ!悪かったな迷惑かけて」
祥介の父親の顔が微笑ましい。
「啓介を怒らないであげて。寂しいんだよ。在来線でここまでよく来れたと思うよ。祥介、ご飯食べてく?お腹が空いたって顔してるよ。明日休みでしょ?泊っていったら?」
「そんな、甘えるのは…悪い」
「いいんだよ。あ、四代目サポーター毎日使ってるけど本当にいいよ。もう本当に気にならないよ。祥介、ありがとう」
「お前を治すために外科に行ったんだ。本望だよ」
「パパはアキにいちゃんが好きなんでしょ?三人でずっとここで暮らせばいいよ。病院やめて、ここでアキにいちゃんとお医者さんすればいいよ」
「大人の問題に口を挟むな!」
ピシャリと言いきる祥介の大声に怯み涙目になりながらも啓介は大声で言った。
「じゃあなんでパパの部屋にアキにいちゃんとパパが写ったアルバムがあるの?死んじゃったママの写真は二枚しかなかった!」
いきなりの言葉に祥介は言葉に詰まる。けれど、一呼吸置いて祥介は言った。
「啓介、パパは疲れてるんだ。お前の書き置きを見つけて病院から車で高速道路使ってとんで来た。後にしてくれ。後から説明するから。秋彦、ごめんな。いきなり家族で押し掛けて。ご飯、ご馳走になってもいいか?腹ペコで…。あと、悪いがやっぱり泊めてくれないか?六時間オペだったんだ。流石に疲れた…」
二人を茶の間に案内し、客間に布団を敷いた。その前に啓介には、冷たい麦茶。
祥介には取り敢えず冷たい烏龍茶を出した。二人が飲み物を飲んでいる間、次の日の朝に食べようと思って別にしておいたチャンプル丼と温め直した若布の炒め物と玉子と玉葱の味噌汁を出した。
啓介が『眠い』と言うので横になった啓介に枕を貸し、薄地の毛布をかけてあげた。祥介はチャンプル丼を『美味しい』と言い一心不乱に食べ進め、夕飯を綺麗に食べ尽くした。
「ごちそうさま。やっぱり秋彦の料理は上手いな」
「ありがとう。祥介はいつもそう言うね」
祥介は秋彦を見つめた。そう言って笑った秋彦の顔を見るのは何年ぶりだろう。
童顔なせいか秋彦は四十頭、下手すると三十後半に見える。もう五十に足を踏み入れたのに。歳を取るのをやめたみたいだ。時計の針が動いていない。ここに来てもうゆうに十年は経っているのにな。しみじみ祥介はそう思った。
「少し、飲みたいな。酒、あるか?」
貰い物の日本酒があったので、二人で少し飲んだ。
「どうした、秋彦」
「ううん。時間は過ぎていくなって。どんどん谷崎くんを置いてきてる。忘れたくないのに、時間がそれを許してくれない。毎日祈るように指輪を握るんだ。記憶から消えてしまわないでって」
滅多にお酒を飲んで感情的になるなんてなかったのに珍しいと祥介は思った。
「啓介が、言っていた話、あのとき、啓介に怒鳴ったけど『ここで二人で病院をやればいい』っていうのは、実は俺も考えてたことなんだ。お前は年の割に若く見えすぎだけど、そろそろ年だしな。まあ、俺も…ずっと、高校時代から忘れたことはなかった。傷つけてしまったことばかりだったな。谷崎のように、俺は包むような想い方が出来なかった。お前が谷崎を選んだ以上、俺は遠くから見守るだけでいい。そう思ってきた。秋彦、俺のことは前も言ったが『自分に親切な甘えられる従兄弟』くらいに、軽く思っていて欲しい」
そっと、祥介は秋彦の空いた片手に手を重ねた。
「僕には、谷崎くんがいる。祥介に甘えたら、谷崎くんが悲しむよ…」
「天国で谷崎に会って怒られたら『祥介には想いのかけらもやってない。会いたかった』って言えばいい。あの写真、谷崎か?」
「うん」
「男前だな。ん?あれ?目か青いぞ。カラコン?」
「気づかなかったの?谷崎くん、イギリス人のお父さんとイギリスのハーフのお母さんのお母さんで金髪地毛だし目も自前だよ。…僕はあの髪と瞳に、金色の稲穂と夏空の色を見たよ」
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