62 / 76
第10章
秘密の庭と、ライオンとの逢瀬
しおりを挟む
季節は過ぎる。
夏休みも明けた。
夏休みは毎日をほとんどを谷崎と過ごした。学校も谷崎の手を借り二階に上がる。
必要な時だけ教室へ行く。
祥介とも、
昔のように話せるようになった。
もう、胸も痛まない。
幼馴染みの立ち位置で祥介はいる。
居てくれる。
それから秋彦は昼休み、
もう秋が訪れ、
金木犀の香る小さな小さな秘密の庭で谷崎と待ち合わせる。芳香の庭。
必ず別れ際、触れるだけのキスをした。『秘密の恋人ですね』
と谷崎は笑う。
冬になったら保健室倉庫へ。
マイボトルで暖かな紅茶を二人で飲んだ。
いつの間にか学年も上がり、
時は過ぎる。
金曜日から日曜の午後まで、
まるで逢瀬のように
谷崎は、
秋彦の家に泊まりに来るようになった。
待ち遠しい週末。
大切な、いとしい週末。
抱きあって、
触れあうことに夢中だった。
秋彦はこの時間が永遠に続けばいいのに、と思う。
優しくて、
頼りがいがある谷崎。
秋彦はいつも
抱きあうときは、
谷崎に酔わされるばかりだ。
身体が飽和して
消えてしまいそうだと思えた。
抱きあったあと、
必ず谷崎は秋彦を抱きしめる。
秋彦は谷崎に包まれているこの時間が一番好きだ。しあわせを感じる。
「先輩は、いつも冷たいけれど『した』あとは、ほんのり温かいですね」
「谷崎くんはいつもあったかい。
僕のブランケット。
他のひとは、暖めちゃだめだよ」
「それはないです。だから安心してください。今だけを見て、先輩。俺だけ見て」
額にキスをされる。
谷崎はいつも暖かい。
ポカポカする。
包まれるように抱きしめられながら秋彦はいつも眠ってしまう。
勿論一日中抱きあってる訳じゃない。
勉強も見てあげた。
谷崎の集中力は凄かった。
秋彦が作った模擬テスト。
普通三十分かかる難易度のものを十分かからずに解いた。
「凄いね。全問正解。谷崎くんは数学得意なの?」
「特別得意なのは数学と物理っす。
ばあちゃんが、物理の学者だったっていうんですけど、
ばあちゃんカツグから嘘かホントか解らないっす。
スコーン焼いてくれたことしか覚えてないですね」
「数学的要素は遺伝するって聴いたことあるよ。
本当かどうか解らないけど…
僕はお父さんが数学者だったからかな。
母さんは助手だった。
母さんのお祖母ちゃんは物理学をやっていて『女のくせに』って散々言われたって言ってたよ。
おじいちゃんはおばあちゃんと共同研究してたって。
お母さんはおばあちゃんとおじいちゃんが大学で教えてたのが、
母さんは照れ臭さかったけど、誇りだったって。
谷崎くんは『贈り物』って言ってくれたね。嬉しかった」
僕と谷崎くんもずっと一緒にいられたら。口にだしてそう言う前に、僕が口ごもると、
「俺がいます。ずっと傍にいますよ、
ほら、前に話してくれたじゃないですか、カルガモの話。
雛は親に離れずにずっと
一緒にいるんでしょう?」
「…そうだね。ずっと一緒にいられたらいいね」
「ずっと一緒に『いよう』でしょう?」
ああ、あのひとと同じことを言う。
秋彦は泣きそうになる。
未練はない。
ただ、そう言ってくれたひとの手を、
掴めなかった。
改札に消えていく後ろ姿しかもう、はっきりとは思い出せない。
あんなに『好きだ』なんて言っておいて。一番信用できないのは、自分だと秋彦は思う
─────────《続》
夏休みも明けた。
夏休みは毎日をほとんどを谷崎と過ごした。学校も谷崎の手を借り二階に上がる。
必要な時だけ教室へ行く。
祥介とも、
昔のように話せるようになった。
もう、胸も痛まない。
幼馴染みの立ち位置で祥介はいる。
居てくれる。
それから秋彦は昼休み、
もう秋が訪れ、
金木犀の香る小さな小さな秘密の庭で谷崎と待ち合わせる。芳香の庭。
必ず別れ際、触れるだけのキスをした。『秘密の恋人ですね』
と谷崎は笑う。
冬になったら保健室倉庫へ。
マイボトルで暖かな紅茶を二人で飲んだ。
いつの間にか学年も上がり、
時は過ぎる。
金曜日から日曜の午後まで、
まるで逢瀬のように
谷崎は、
秋彦の家に泊まりに来るようになった。
待ち遠しい週末。
大切な、いとしい週末。
抱きあって、
触れあうことに夢中だった。
秋彦はこの時間が永遠に続けばいいのに、と思う。
優しくて、
頼りがいがある谷崎。
秋彦はいつも
抱きあうときは、
谷崎に酔わされるばかりだ。
身体が飽和して
消えてしまいそうだと思えた。
抱きあったあと、
必ず谷崎は秋彦を抱きしめる。
秋彦は谷崎に包まれているこの時間が一番好きだ。しあわせを感じる。
「先輩は、いつも冷たいけれど『した』あとは、ほんのり温かいですね」
「谷崎くんはいつもあったかい。
僕のブランケット。
他のひとは、暖めちゃだめだよ」
「それはないです。だから安心してください。今だけを見て、先輩。俺だけ見て」
額にキスをされる。
谷崎はいつも暖かい。
ポカポカする。
包まれるように抱きしめられながら秋彦はいつも眠ってしまう。
勿論一日中抱きあってる訳じゃない。
勉強も見てあげた。
谷崎の集中力は凄かった。
秋彦が作った模擬テスト。
普通三十分かかる難易度のものを十分かからずに解いた。
「凄いね。全問正解。谷崎くんは数学得意なの?」
「特別得意なのは数学と物理っす。
ばあちゃんが、物理の学者だったっていうんですけど、
ばあちゃんカツグから嘘かホントか解らないっす。
スコーン焼いてくれたことしか覚えてないですね」
「数学的要素は遺伝するって聴いたことあるよ。
本当かどうか解らないけど…
僕はお父さんが数学者だったからかな。
母さんは助手だった。
母さんのお祖母ちゃんは物理学をやっていて『女のくせに』って散々言われたって言ってたよ。
おじいちゃんはおばあちゃんと共同研究してたって。
お母さんはおばあちゃんとおじいちゃんが大学で教えてたのが、
母さんは照れ臭さかったけど、誇りだったって。
谷崎くんは『贈り物』って言ってくれたね。嬉しかった」
僕と谷崎くんもずっと一緒にいられたら。口にだしてそう言う前に、僕が口ごもると、
「俺がいます。ずっと傍にいますよ、
ほら、前に話してくれたじゃないですか、カルガモの話。
雛は親に離れずにずっと
一緒にいるんでしょう?」
「…そうだね。ずっと一緒にいられたらいいね」
「ずっと一緒に『いよう』でしょう?」
ああ、あのひとと同じことを言う。
秋彦は泣きそうになる。
未練はない。
ただ、そう言ってくれたひとの手を、
掴めなかった。
改札に消えていく後ろ姿しかもう、はっきりとは思い出せない。
あんなに『好きだ』なんて言っておいて。一番信用できないのは、自分だと秋彦は思う
─────────《続》
0
あなたにおすすめの小説
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
《完結》僕が天使になるまで
MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。
それは翔太の未来を守るため――。
料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。
遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。
涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる