あなたを追いかけて【完結】

カシューナッツ

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第9章

ライオンの『恋』①

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触れるだけの口づけをし、谷崎は起こさないように秋彦の腕をほどき、朝御飯を作った。

目玉焼きと、ご飯。
大根と油揚げの味噌汁。
生姜と胡瓜と茄子と大葉と、蚊に刺されつつ採った庭の茗荷で作った五目漬け。


茗荷は沢山取れたので下処理をして

生で食べる分と
冷凍する分に分ける。


お節介だとは解っているが、
昨日茗荷が好きだ、と秋彦が話していたからだった。



想いとは残酷だ。
無意識につけられる優先順位の差。


谷崎はこんな思いは初めてだった。
ベッドを共にしたひとなら何人もいる。




女性も、男性も。
それでも、こんな気持ちは初めてだった。

大切にしたいと思わせる相手は、谷崎にとって可愛らしく、ときに妖艶な美しさを垣間見せる、小さな仔ウサギだけだ。




朝御飯を作っていると、
ドアの隙間からシャワーの音が聞こえた。

暫くすると黒地に白でカエルの可愛いイラストが書いてある
Tシャツとカーキの歩きやすそうなパンツ姿で秋彦は現れた。






「おはようございます。先輩。朝飯出来てますよ」

谷崎は両手に料理の皿を持ち秋彦を見つめる。

「え?ごめん!任せっきりになっちゃって」

「家事なんてのは出来る方がやればいいんです。誰がやるなんて、
決まってないんですから。
勝手に冷蔵庫あさって朝飯作る俺も行きすぎですが。…朝は足、痛むんじゃないかと思って、お節介しました。すみません」

「ううん。ありがとう。
キッチンからお味噌汁の匂いがするなんて母さんが休みの日くらいだった。
懐かしくて嬉しい」

表情を柔らかく崩す秋彦にホッとしながら、谷崎は、

「あんまり上手じゃないんすけど…」

作った料理を並べていく。

二人の朝食。テレビはつけない。

「目玉焼き、とろふわ。美味しい。
あとこのお漬け物。
浅く漬けてあって、いくらでも食べられちゃいそう。茗荷は…高いから買ってないと思ったけど、どうしたの?」

谷崎は少し口ごもり、

「お庭から失礼しました。
お節介だとは解っているんですけど、茗荷入れるとこの漬け物美味しくなるし…」
「なるし?」

秋彦は厳しい顔をした後、
フッと表情を崩し母親ような眼差しで谷崎を見つめた。

「昨日のお夕飯の時、僕が好きな野菜で茗荷の話をしたからでしょ?」

「…はい。先輩、喜ぶかなって。
下処理をして残りは冷蔵庫にあります」

「ありがとう。でも、草払ってないから蚊、いっぱいいたでしょう?
手、見せて。腕も。あーやられてる。洗った?足は?」

「足は無事です。朝御飯の後虫さされの薬あれば下さい。あ、味噌汁どうです?俺自慢のの奴なんです」

「すごく美味しい。七味合う」
「喜んで貰えてよかった」

谷崎といると、穏やかな気持ちになれる。凪いだ海、風も雲もない晴れ渡った青空。




食器を洗うのは谷崎。
拭いて片づけるのは秋彦の仕事。
水仕事が終わり、ホッとしたところで、秋彦は谷崎をバスルームに連れていき、言った。


「谷崎くん、脱いで」



─────────続 
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