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第5章

ライオンの悲しみ②

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「谷崎くんは、声をださずに泣くんだね。僕を責めてもいいのに………。
自分を責めちゃだめだよ。…谷崎くん、良く聞いて。出会ったときのこと、おぼえてる?
本のカバーつけて遅くなった日。
それから僕の学校へ行く理由は
『放課後になったら図書室にいくこと』
になった。僕のモノクロームの世界に灯りをともしたのは谷崎くんだ。
谷崎くん、僕はいいことばっかり。それまで知らなかったこと沢山した。
普通の高校生がすること沢山二人でした。
大将の五目あんかけ焼きそば、まだ食べてないから、今度一緒に行こう?
学校生活で、あんなに僕のために泣いてくれたのは谷崎くんだけ。 
それに、あの時ベランダの手すりから無理やり谷崎くんが引き剥がさなかったら、僕はここにはいないよ。
感謝してる。あのときの絶望から救ったのは谷崎くんだよ」

 「でも、葉山先輩が手を伸ばしたら、葉山先輩をとるんじゃないですか?」 

「僕は谷崎くんをとるよ」



嘘でもいい。幸せだと谷崎は思う。秋彦は谷崎を優しく抱きしめた。 

「ごめんね…」 

「何がです?」 

「全部…今までのこと、全部。甘えてた。許されると思ってた。
傷つけてたんだよね。傷ついたんだよね。でも、嬉しかったんだ。
学校で誰かと話をするなんて、なかったから。祥介は僕の保護者だったから。
気を遣わずに話が出来たのは、谷崎くんが初めてで、勝手に友達が出来たって舞い上がって───」 

「友達で良い!」

 谷崎は秋彦の背中を思い切り抱きしめる。

 「友達で…一番の理解者でいたいです。友達なら…ずっと、一緒にいられる。でも、今だけは、最後ですから…」 

小さく漏れる、谷崎の嗚咽が切ない。秋彦も谷崎の体に回した手に力を込めた。 どちらへの想いも本当。
揺らいでいる。秋彦の本音だった。
でも、この事は、谷崎を迷わせる。


ならいっそ口をつぐもうと秋彦は思う。抱きしめられて、心拍数が上がることも、柔らかに甘いフレグランスに酔いそうになることも、

簡単に言えば、谷崎とは恋の途中であることも。



 「先輩、ありがとうございます。さっきはどうかしてた」 

「谷崎くん、ごめんね」 

「謝らなくて良いです。俺こそスミマセンなんか。やっぱり片思いは簡単に消えてくれないみたいです。

でも、もう二度と先輩にあんな顔させません。だから、元通りになって、くれますか?もうあんなこと言いません。

先輩を泣かせるようなことしません」

 「泣いて───」 

頬が顔中グシャグシャに濡れてる。 

「谷崎くんが悲しいと僕は悲しい。僕は谷崎くんに甘えてた」

 「甘えてください。それしか出来ない」 

「ううん。言い方変えると『無神経だった』何でも許されるっていう甘え。僕を『友達』って言ってくれて、ありがとう」

 顔を見合わせ笑う。泣きそうになりながら。これで、元通り。 振り出しに戻る。




───────────続
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