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第5章
兎を忘れられないライオン
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秋彦は最初、気づけなかった。毎日谷崎は秋彦と一緒には帰っていたのに。谷崎が
『すみません。今日ちょっと用事あるんです。一人で帰れますか?』
と言うようになったことが。
そうしてそれが当たり前になって、谷崎は、
『お先っす。先輩』
理由も言わず、先に帰るようになった。
谷崎が、秋彦に一緒に帰る人が出来たことを、知らず知らずのうちに感じさせていたと秋彦は暫くしてから気がついた。
「谷崎くん。今日は一緒にラーメン食べよ。僕のおごり」
「でも…いいんですか?やっと仲直り…したんじゃないですか?」
「やっぱり、気を遣わせてたんだね。ごめんね。でも、ありがとう。皆、谷崎くんのおかげ。本当に、ありがとう。
今日のラーメン屋さんは僕の家。お夕飯食べて泊まっていって。連休だし」
「悪いですよ。遠慮します。もし誤解されたら…」
「祥介は良いって言ってた。ね?」
こんな無防備な可愛らしい、優しい顔で笑うんだと谷崎は初めて知った。
やはり祥介の存在はあまりに大きいと、谷崎は思う。谷崎は苦笑して言った。
「先輩、んじゃ、お言葉に甘えます。そんな顔されたら断れません」
「良かった!帰りスーパー寄って帰ろ?」
仔ウサギはニコリと笑う。
幸せそうなこのいたいけな生き物を守るのは、もう自分ではなくなったとのかと思うと、
ライオンは、少しだけ切なくなった。
秋彦が作るラーメン。市販の茹でる生中華麺とスープ。
それとモヤシとニラと挽き肉の餡掛けにごま油で風味漬けしたものがかかっていた。暖かい、優しい味。
「美味しいです。優しくて、ホッコリします。この、餡掛けのとろみがいいですね」
「良かった。昔母さんが作ってくれて、思い出して」
「台所、キツかったでしょ。洗い物は一緒にやりましょう」
「うん。ありがとう」
皿を秋彦は洗う。谷崎が拭く。
秋彦の家は広い。
孤独をより強く感じるだろうと谷崎は思った。
「祥介と、喧嘩するまで一緒に住んでたよ」
と言っていたけれど、
女子の執拗ないやがらせにあってからも、
足を悪くしてからも、
独りで生活して
炊事、
洗濯、
掃除、
勉強………。
ままならない足を抱えて全部してきたと思うと切なくなる。
「祥介とまた、一緒に暮らすことにしたんだ。今、準備中」
カチャカチャと皿を全部洗い終わり、
秋彦は笑った。喜んであげなければいけない。
「良かったですね」
と笑顔で言わなければいけないと谷崎は思う。それが秋彦が望んできたこと。
谷崎は、秋彦の笑顔が戻ることを願ってきた。
でなければ祥介とLINEなどやり取りしない。何故祥介かは谷崎が一番解る。自分では駄目だからだ。祥介しかいない。解っている。谷崎はそんなことはずっと前から解っていた。
───────────続
『すみません。今日ちょっと用事あるんです。一人で帰れますか?』
と言うようになったことが。
そうしてそれが当たり前になって、谷崎は、
『お先っす。先輩』
理由も言わず、先に帰るようになった。
谷崎が、秋彦に一緒に帰る人が出来たことを、知らず知らずのうちに感じさせていたと秋彦は暫くしてから気がついた。
「谷崎くん。今日は一緒にラーメン食べよ。僕のおごり」
「でも…いいんですか?やっと仲直り…したんじゃないですか?」
「やっぱり、気を遣わせてたんだね。ごめんね。でも、ありがとう。皆、谷崎くんのおかげ。本当に、ありがとう。
今日のラーメン屋さんは僕の家。お夕飯食べて泊まっていって。連休だし」
「悪いですよ。遠慮します。もし誤解されたら…」
「祥介は良いって言ってた。ね?」
こんな無防備な可愛らしい、優しい顔で笑うんだと谷崎は初めて知った。
やはり祥介の存在はあまりに大きいと、谷崎は思う。谷崎は苦笑して言った。
「先輩、んじゃ、お言葉に甘えます。そんな顔されたら断れません」
「良かった!帰りスーパー寄って帰ろ?」
仔ウサギはニコリと笑う。
幸せそうなこのいたいけな生き物を守るのは、もう自分ではなくなったとのかと思うと、
ライオンは、少しだけ切なくなった。
秋彦が作るラーメン。市販の茹でる生中華麺とスープ。
それとモヤシとニラと挽き肉の餡掛けにごま油で風味漬けしたものがかかっていた。暖かい、優しい味。
「美味しいです。優しくて、ホッコリします。この、餡掛けのとろみがいいですね」
「良かった。昔母さんが作ってくれて、思い出して」
「台所、キツかったでしょ。洗い物は一緒にやりましょう」
「うん。ありがとう」
皿を秋彦は洗う。谷崎が拭く。
秋彦の家は広い。
孤独をより強く感じるだろうと谷崎は思った。
「祥介と、喧嘩するまで一緒に住んでたよ」
と言っていたけれど、
女子の執拗ないやがらせにあってからも、
足を悪くしてからも、
独りで生活して
炊事、
洗濯、
掃除、
勉強………。
ままならない足を抱えて全部してきたと思うと切なくなる。
「祥介とまた、一緒に暮らすことにしたんだ。今、準備中」
カチャカチャと皿を全部洗い終わり、
秋彦は笑った。喜んであげなければいけない。
「良かったですね」
と笑顔で言わなければいけないと谷崎は思う。それが秋彦が望んできたこと。
谷崎は、秋彦の笑顔が戻ることを願ってきた。
でなければ祥介とLINEなどやり取りしない。何故祥介かは谷崎が一番解る。自分では駄目だからだ。祥介しかいない。解っている。谷崎はそんなことはずっと前から解っていた。
───────────続
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