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《エピローグ》最終回・愛を知ること

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「ぼ、僕は奏さんが……好きなんだもん」

 「じゃあ、僕とキスしたい?」



 奏の顔が変わる。海にはほとんど馴染みのない顔だった。
涼を見つめるときに見せる、

夜に咲く山百合のようなむせかえるように甘い、蕩けるような妖艶な顔。

涼と二人で奥の部屋に消えてしまうときの、顔。踏みいってはいけない、禁域。




 「えっ………?」

 何か違う。そういうのとは、違う。

頬に手を添えられる。ドキドキして、何だか怖い。海は泣きそうになる。 

「や、やだっ!」 

背けられた頬に、奏は触れるだけのキスをした。海は力が抜けた。

奏はふふっと小さく笑う。
いつもの顔だった。


悲しくて、悔しくて、
奏にからかわれた気がして海は大声で泣いた。苦しいけれど大切にしてきたモヤモヤしたものが消えてしまった気がした。


 「奏さん、いじわるだっ!」

 「うん。意地悪だね。ごめんね。海。でも、何かスッキリしなかった?
奏父さんって呼んでもらえないかな?」 

「すっきりしだけど、奏さんがいじわるしたから奏さんは、ずーっと奏さん!」


 奏はやさしい声で海に言った。
海の耳に柔らかに響いた。


 「今度二人で天気が良い日に植物園に行こう。涼父さんには内緒。
焼きもちやきだから。
お昼はパスタの美味しいお店に行こう。海はパスタ好きでしょう?」

 「うん……うん……」


 奏に抱きつき海は泣いた。
奏の前だと泣いてばかりだ。 


「なんだ、内緒話は終わったか?どうした?海。泣いてたのか?」

 「ううん。いいんだ。僕『しつれん』したんだ」


奏は困ったように笑い、涼は目を丸くした。
海は照れ臭そうに奏を見る。

目があった奏は、
海を抱きしめた。
海の頬に涙が伝う。奏のシャツに涙が染みた。 

「奏父さん、奏父さん………うーん、やっぱり変だよ。奏さんは、奏さん!」 





 しばらくして合流した流と楓とを交え、バーベキューと花火をした。
こんな楽しいことがあるなんて知らなかった。


終始みんな笑顔だった。
本当の笑顔。
写真もとった。

初めてこのとき奏は楓を『ドクター』ではなく『楓さん』と呼んだ。 
奏に涙が溢れた。勿論楓も。 


「抱きしめて、楓さん…………父さん」 

初めての感覚。暖かく、柔らかく守られている。涼とは違う安心感。 


「奏。幸せになるんだよ」 


かつて愛して、もとめた声。今は優しい父の声。少し前に、知っておいて欲しいと、流さんは奏にすべてを語った。

流さんは、

 「私がすべて悪い。だから楓を許してやってくれ」 

と言い、苦しそうに俯いた。 

「楓は君を愛しているよ。父として、大切に思っているよ───」 





 夜明けのベッド。水平線から陽の光が覗き、周りを金色に染めていく。
眠る海の髪を撫でながら奏は言った。 


「本当の恋人にいつか出会うよ。海だけの恋人に。僕が涼と出会ったようにね。
早く見つかると良いね。毎日が幸せになる。

苦しかったり、つらかったりしても、いつか、報われる。
だから今、僕は海がいてくれて、
涼がいてくれる。幸せだよ」


 奏の海を挟んだ隣の涼が海の頬を撫でながら言う。 


「涼と海が──楓さん、流さんがいてくれたから、生きてこれた。ありがとう、海。お前も出会うよ。いつか………運命のひとに。愛を知るときが来る。いつか………」 



 


《愛して、許して、一緒に堕ちて》──完
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