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《エピローグ》③涼との邂逅

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「泣き虫なのは、涼ゆずりかな?海。
昔の涼をそのまま小さくしたみたいだ。
会いたかった。
顔を見せて。
ああ、こんなに泣いて、可哀想に。
ごめんね。もっと近くに来て。
ぎゅっとさせて。海は今、何歳かな?」


 小さなやさしい、まるい声が、海の胸を高鳴らせる。海の涙を奏は枕元のティッシュでやさしく拭き、海を抱きしめた。 


「八歳、です」 

「小学生?」

 「いえ、大学で……数学の勉強をしています」


 数学的能力は遺伝的要素が高い。特に『母親』の。奏はふふっと笑う。奏は海を見つめて思った。

 「……花は、好き?」

 「植物と、動物が大好きです。でも、見るだけ……実験はしたくないんです。花は地面に生えてるのが好きです。
父さんは色んな花の話をしてくれます。その度に……淋しそうな顔をします」


 ぎゅっと抱きしめてくれるやさしい手。細くて折れてしまいそう……。

怖々海は奏の指を見つめた。

 「奏さん。ごめんなさい。貝もネックレスも。つ、つまんない意地はって会いに来なくて」


 「じゃあ、欠けたのはスペアにして、僕が元気になったら皆で海辺のコテージにみんなで泊まって貝を拾おうか」

 話が一段落ついた所で、涼は海に、


「楓おじさんに電話してきなさい」と言った。

 ───────────────

 ドアが、閉まる。涼の頬に涙が伝った。


「八年、待った。あの子を待ったのか?奏」

「解らない。ごめんね。待たせたね、涼」 


「待った。待ったよ。八年だ、八年。奏、かな、で………忘れたことがなかった。毎日毎日、話しかけて、髪を撫でて、言葉をかけて……」



 涼の涙はとまらない。 


「キスはしなかったの?」 


「……してないな」


「目覚めのキスをしてよ。涼」


「早く、元気になって、海辺のコテージへ行こう。貝を拾おう。
愛してる。奏だけだ。
ずっと、愛してるよ。
ずっと忘れた日なんてなかった」 

そう言い、涼は触れるだけの口づけをした。





「これが八年分のキス?」

 「本気でしたら、病みあがりに響きそうだ」

 「してよ。涼にキス、されたい」

 涼は甘く食むような、溶けるようなキスをした。絡めて、味わった。
ずっとこのままでいたいような、
やさしい心地よさ。
激しさはない。奏は涼が、加減しているのが解った。
やさしい。いつも、泣きたくなるほど、
奏はそう思う。奏の瞳から、
とめどなく涙が溢れた。 


「涼のキスだ。やさしいキス。ねぇ、涼。僕は許される?僕たちは許される?」


 「そうだな。今、奏が目を覚ましたことが、神様がいたら許しの証じゃないかな?

八年間が罰なら。俺たちが許されないなら、
俺たちの海はいないよ。

怖がらなくていい。
愛してるよ。ずっと一緒にいよう。
リハビリは楓さんがついてくれる。

夏になったら皆でコテージへいこう。泳ぎを教えるよ。美しい人魚は泳ぎも上手くなくちゃな。海も泳ぎは得意だ。早く、元気になって、奏………」 



──────────続
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