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《第11話》本当に君が好き、なのに。

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さっきの涼の言葉が耳から離れない。振り絞るように言い切った
『セカンド』という言葉。

何で咄嗟に『違う!』と言えなかったのだろうか。
蛇口を捻り、熱いシャワーを浴びる。
ドア越しに涼と話をする。
少し聞き取りづらい。

 「奏が髪を下ろすと、父さんのパスケースに隠していれてある人とそっくりなんだ。何か不思議だね。昔小さい頃『誰?』って聞いたら『忘れなさい』って言われて、それっきり。不思議な縁だね」

 「うん………そうだね」

奏はすっかり元気をなくす。
好きなのに、伝わらない。
伝えようとしても、信じてもらえない。 今までが、今までだ。

けれど、昔のようには振る舞えない。
好き勝手ものを言っていた日々。
あの頃は楽に呼吸ができた。

今は言葉が出ない。 ああ、なるほど『人魚』か。
痛みを伴う歩行のかわりに、沢山の足枷がついて回る。 

涼を悲しませたくない
涼を傷つけたくない
涼に嫌われたくない

シャワーを浴びながら泣いた。沢山泣いた。ここならばれない。 前に涼に言われた。 

「奏は蝶々みたいだ。掴み所がなくて」 

奏は俯いて泣き続けた。もう、飛べない。 息も絶え絶えの這い回ることしか出来ない穢い虫。自分は蝶々ではないことを改めて知った。

自分には羽根はない。 ふと、思い返す。 初めて出会った日、僕は理事長室で理事長と、はしたなく抱き合っていた。

そして今日、ドクターと口づけて僕はみっともない顔をさらしていた。

そして、今日の電話。 全て聞いている。ばれてしまっている。 どんなことをしてきたか。みんな、みんな、知っている。 

そして、涼が涼の父さんに言われた言葉 好きになってくれるはずはない。こんな、僕を。 蹲ってシャワーを頭から浴びる。

長い、腰まである淡い栗色の髪がが身体中に絡む。 頭からシャワーを浴びるから、泣いているかは解らない。

 泣きながら笑う。今、解った。涼の苦しさを。 知らずにいた。こんなにもつらいものだと言うことを。
 困ったように笑う時、少しだけ涼の目は潤む。

 苦しかったんだね、
苦しませてごめんね。 

両手で顔を覆い全身を震わせて泣いた。 

「奏?」 

「な、何か用?出てって!」

 「目が赤いよ。泣いてたの?……こんな熱いお湯浴びて、肌が真っ赤だ!」

 キュッとシャワーを止め、涼は、大きな白いバスタオルで奏を包み、抱き上げガウンを手早く着せソファに座らせる。

 「何か飲む?」 

力なく奏は首を振る。 

「涼、僕が一番好きなのは、君だよ。信じてほしい。お願い……お願い、です」

 頭を下げる。初めてひとに頭を下げた。 




「僕を……愛して、許して、涼」 


「話して。全部教えて。君の口から聞きたいんだ。無機質なスマートフォンから聞こえた話じゃなくて。温度のある声から聞きたい。どんなことでもいい。君の声で聞きたい」 

「……僕は、九条の研究所で育ったんだ。九条の製薬部門や化学研究は世界規模なのは知ってるよね。 毎日採血、良く解らない検査。朝昼晩は全部シリアルとよく分からないスープ。一食毎に、二十錠を超えるよく解らない薬を小さいときから飲まされてた。後はひたすら勉強。IQやEQをあげるよく分からない実験。そんな毎日、物心ついたときからずっと一緒に居たのは、ドクターだった………」

奏は、ポツリポツリ語り始めた。 涼は、隣の奏の手を自分の手に重ねた。



───────────【続】 
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